ITmedia NEWS > 企業・業界動向 >

なぜMicrosoftは7.8兆円投じてまでゲーム会社を買うのか 変革期に突入するゲームビジネス(1/3 ページ)

» 2022年01月24日 14時00分 公開
[西田宗千佳ITmedia]

 1月18日、米Microsoftは、ゲーム大手の米Activision Blizzardの買収意向を発表した。「Call of Duty」「Warcraft」「Hearthstone」「Diablo」など、ゲームファンに人気の高いゲームを多数抱える大手を、総額687億ドル(約7.8兆円)で買収するという巨大案件だ。

1月18日、米Microsoftは、ゲーム大手Activision Blizzardの買収意向を発表

 Activision Blizzardは、株式時価総額で言えば、任天堂と同じくらいの規模に当たる。規模もさることながら、ゲーム業界を支える「超大手」の一角であり、プラットフォーマーの傘下に入るとは、多くの人が予想してこなかった流れだ。

 とはいうものの、買収が発表されてから考えれば、Microsoftがこうした決断に至った理由も理解できる部分が多く、予見させる流れがなかったわけでもない。

 買収の第一報が入ってきた時に、筆者も多くの人々と同じように「まさか」と驚いた。一方ですぐに、「ああ、そういう流れなのか」と納得した部分がある。

 Microsoftはなぜ「今」Activision Blizzardの買収に至ったのか、そして、それがどのような影響を与えるのかを解説して見たい。

ゲームビジネスの構造変化で「ゲームメーカー買収時代」が来ていた

 ご存じのように、現在のゲームビジネスは「スマホ」向けが最も大きい一方、濃く強いビジネスとして「PC」「家庭用ゲーム機」が併存する。どの部分でもプラットフォーマーが有利で大きなビジネスを展開できているが、特に家庭用ゲーム機のプラットフォーマーは、その役割が15年前とは変わってきている。

 15年前、すなわちまだPlayStation 3やXbox 360が出たばかりの時代、プラットフォームの勢いを決めるのは「サードパーティー製ソフトをいかに独占するか」だった。要は「あのゲームが出るゲーム機を買う」という当たり前の発想に応えるため、1990年代以降、ゲームメーカーの取り込み合戦が続いていたわけだ。

 ところが、ゲーム開発が大型化してくると、ゲームの売り方も変わってくる。リスクヘッジのため、複数のゲームプラットフォームで同じゲームを発売する「マルチプラットフォーム」が基本となっていく。ゲーム機の特性により、それぞれ多少動作に違いが出ることはあれど、内容はほぼ同じであるため、消費者は「自分が持っているゲーム機向けのソフトを選ぶ」ようになっていく。同時に、マルチプラットフォーム展開の中にPCを含むのも一般化し、市場が拡大する。

 そうなると、ゲームファンはどこでゲーム機を選ぶようになるのか?

 そこはやはり独自のゲームがあるか、という点になる。俗に「ファーストパーティー」と呼ばれる、自社出資、もしくは自社傘下の開発チームで作られたゲームの重要度が増してきた。

 「昔からそうでしょう?」と言われれば、「まあそうです」と答えるしかない。

 ただ、ゲームプラットフォーマーが成熟し、ゲームメーカーとしての力をよりつけてきたこと、複数のゲーム機を持つのがそこまで珍しいことではなくなり、世界規模での販売数が増え、ファーストパーティータイトルのヒットも大型化していったことなどから、ファーストパーティーに属するゲーム開発会社・開発スタジオの充実が急務となった。

 ゲームプラットフォーマー、特にソニーとMicrosoftは、関連企業の買収に、特に意欲的だ。ソニー・インタラクティブエンタテインメントは「PlayStation Studio」、Microsoftは「Xbox Game Studio」としてゲームソフト開発部門を再編、ブランド化して今に至る。

大型買収に進むMicrosoft

 そのMicrosoftの方針は、特に2020年のZeniMax Media買収から方向転換する。

 ZeniMax Mediaは傘下に、「The Elder Scrolls」「Fallout」シリーズなどの人気作を持つゲームメーカー、Bethesda Softworksを持つ。ZeniMax Mediaの買収は、実質的にBethesdaを求めてのものだ。2020年にZeniMax Mediaを75億ドル(約8500億円)で買収したが、この時も、買収額の大きさと「大きなブランドを持つゲームメーカーを買収した」ことで驚かれた。

 それまでの買収は、タイトル以上に開発力を評価してのものが多く、買収規模はそこまで大きくなかった。「ゲームの開発元を買収していた」ようなものだ。

 だが、ZeniMax/Bethesdaの買収は、1つのゲームスタジオを買ったという話ではない。複数のブランドやIPを持つ企業を買収したわけで、いままでとは形が違う。事実、2021年6月にゲームイベント「E3 2021」に合わせて開催されたMicrosoftのイベントは、「Xbox & Bethesda Games Showcase」と銘打たれていた。ブランドとして併立するほど大きな存在である、ということの証だ。

昨年のE3向けのイベントは、「Xbox & Bethesda Games Showcase」という名称に。大きなブランドを買収したが故に名前が併立している。

 今回のActivision Blizzardもこれに近い。ヒットゲームを多数抱えた企業を買収し、傘下により多くのブランドを抱えていく形になるわけだ。そういう意味では、「一貫した戦略」と言える。

 多くの人を驚かせたのは、2020年に75億ドルという規模の大きな買収をしたMicrosoftが、さらに一桁大きな規模の買収を仕掛けた、という点だろう。

       1|2|3 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.