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「今のメタバース」を生み出した、年間10億台の「ある量産品」(1/3 ページ)

» 2022年01月26日 18時04分 公開
[西田宗千佳ITmedia]

 ITの世界は、トレンドが少し形を変えて繰り返し発生する、螺旋(らせん)のような構造で成り立っている。

 昨今話題の「メタバース」も、そもそも、2007年頃、いわゆる「Second Life」のブームの際に、同じ言葉が使われたのが元になっている。それらが「バーチャルリアリティ」から発したものだとすれば、1990年代にあったブームのリバイバルともいえる。

 過去のものと最新のものではどこが違うのか? いろいろな観点があるわけだが、特に技術面を考えてみると、「量産」の影響が色濃く反映されている。

 今回は、メタバースの事例からさかのぼっていく形で、「トレンドの変化と量産」の関係を考えてみよう。

この記事について

この記事は、毎週月曜日に配信されているメールマガジン『小寺・西田の「マンデーランチビュッフェ」』から、一部を転載したものです。今回の記事は2022年1月17日に配信されたものです。メールマガジン購読(月額660円・税込)の申し込みはこちらから。さらにコンテンツを追加したnote版『小寺・西田のコラムビュッフェ』(月額980円・税込)もスタート。

今回のメタバースは「スマホの余波」で生まれた

 メタバースが何か、という話をし始めると、定義論争になって長い話になるので、ここではシンプルにとどめたい。要は「コンピュータの中に作られた領域を生活やコミュニケーションに使う」という話だ。

 それ自体は珍しい概念ではなく、1960年代にコンピュータネットワークとCGが生まれると同時に発生している。それが、CGの進化によって「3D空間」という見た目を備え、さらに「サービスとしての3D空間」が生まれた、という流れだと総括できる。

 もろもろ違いはあるが、2007年の「メタバース」も、今の「メタバース」も、サービスとしての3D空間の価値を問うている、という意味では同様である。

 ただ当時と劇的に違うのは、いわゆるVR用HMDが、かなり実用的なものとして世の中に広がりつつある点にある。普及も改善もまだまだ進むと思うが、平面の画面を客観的に眺めるのとは違う状況が生まれているのは事実だろう。

photo 2016年のOculus Rift

 では、2つの「メタバース」の間でなぜ、VR用HMDが実用的になってきたのだろうか? VR用HMD自体は1990年代からあるものだが、本格的に立ち上がるには明確な理由がある。

 それは「スマートフォンの普及」だ。

 一見無関係のように見えるが、VR用HMDがどのように作られていったかを考えると、理由はよく分かる。

 現在のHMDが出来上がる元となった「Oculus Rift」は、5インチクラスのディスプレイを魚眼レンズでゆがませ、視野を拡大する手法で没入感を実現した。自分が向いている方向を認識するには、いわゆる加速度センサーを使っている。

 初期に使われたディスプレイパネルはスマートフォン用に量産されたものだったし、加速度センサーも、スマートフォンの量産に伴ってコストが下がったため、使いやすくなった側面がある。

 すなわち、スマホの量産で安くなったパーツの存在があったからこそHMDが生まれたのであり、その後進化を重ねて市場が大きくなった結果、HMD向けの専用パーツが作られるようになった……という流れである。

 これが、「スマホがなければHMDは生まれなかった」「スマホの余波でHMDが生まれた」ということだ。

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