ある製品のヒットが他の機器の登場を促す起爆剤になる、という現象は、スマホだけに限った話ではない。スマホのように数・質の面で過去最大の変化であったといえるだろうが、それ以前にもあったことだ。
1990年代のVRブームも、PCとワークステーションが同時に高性能化を進めた結果、CG処理能力がようやく一定の水準に達した結果といえる。その拡散がゲーム機などへの活用につながり、一般化を促した。
さらに言えば、1960年代に「電卓」が生まれ、そこで生まれた半導体ニーズが業務用端末の高度化を促進し、さらにPCを生み、アーケードゲームを産んだ。
デバイスの生産事情が変わると、それを活用する新しい機器が出てくるのは必然なのであある。ある意味、隕石が落ちてその余波で生態系が変わるようなものだ。そういう意味では、スマホはやはり「市場最大級の隕石」だったのだろう。
「ポスト・スマホとは何か」という話は、数年置きに話題になる。
過去のことを考えると、「新しい技術を必要とするものが生まれて、そこから連鎖的に新しいものがさらに生まれる」という意味で、ポスト・スマホは必要だと思う。ただ、スマホがあまりに劇的な変化であったために、次がなかなか難しくなっている、という側面はあるように思う。次の隕石も巨大とは限らないわけだ。
スマホは、世界中に「1人1台」という巨大なニーズを生み出し、それを前提としたパーツの産業を生み出した。では、次の存在として、さらに多くの数を見込むことは可能なのだろうか? 1人複数台とか、短期に消費して買い替えるような需要を想定するのは難しい。
とはいえ、パーツメーカーとしても、一度「年間数億個」の世界まで行ってしまった以上、ここから降りるのは難しい状況にある。スマホの買い替えサイクルが鈍化し、性能向上も求められなくなっていくと、産業全体がスローダウンするし、次への種も生まれづらくなる。だからといって、変化のないスマホを毎年高額で買い替えてくれるほど、消費者も甘くない。
スマホの次が何か分からないが、いきなり不連続な機器が登場して成り代わるのは難しいだろう。だから、連続的に「パーツが切り替わる」のかもしれない。2つ折り可能なディスプレイの利用などは、その一部かとも思う。
そういう意味では、次なる変化の起爆剤は、意外とスマホのようなメインデバイスではないのかもしれない。スマホに連携するデバイスで、「いきなり全員は持たないが、多くの人が買う」もの。それがスマホとは違う価値観、スマホとは違うパーツを使って作られ、新しい機器を生み出す元になるのかも、と考えている。
そういう意味では、VR・AR用のHMDは、確かに、そうした要件を満たした機器なのかもしれず、だとすれば、今の「メタバースブーム」も、そうした変化への期待の一翼を担っているのかもしれない……。
今はそんなふうに考えている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR