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「今のメタバース」を生み出した、年間10億台の「ある量産品」(2/3 ページ)

» 2022年01月26日 18時04分 公開
[西田宗千佳ITmedia]

スマホ登場後の「2011年」に着目すると……

 ちょっと強引な話に思えたかもしれないが、そんなことはない。これは明白な事実だ。

 スマートフォンの拡大は、多くの産業に破壊的な変化をもたらした。なぜなら、非常に高度な技術を必要とするパーツを使う製品が、いきなり年間10億台生産される市場が立ち上がったからである。もちろん、その前身として「フィーチャーフォン」があったわけだが、世界的に見れば、大型のディスプレイやモーションセンサーなど、多数の先進デバイスを備えたハイエンド製品の比率は大きかったわけではない。スマホの登場で、高性能デバイスが調達される量が一気に増えたのは間違いない。

 大きな需要を満たすために高性能なパーツが量産されるようになると、そのコストや入手難易度が一気に変化する。特に、まだニーズが定まっていない新しい産業は、そうやって変化したコストや機能の影響を受けやすい。

 いわゆる「デジタルガジェット」「IoT機器」の市場とバラエティーが拡大したのも、スマートフォン登場以降である。アクションカムやドローンはその典型だろう。高性能なカメラとプロセッサ、モーションセンサーといったパーツが低価格で入手できるからこそ、それらの機器の開発は可能になった。HMDと事情はまったく同じである。

 iPhoneが生まれて15年が経過した。

 iPhoneとセカンドライフは同じ時期に生まれているが、セカンドライフが騒がれているとき、iPhoneをはじめとしたスマートフォン市場は勃興期だった。生産量もまだ小さく、その影響力も限定的だ。

 だが、差別化のために「スマホのために作られた最新鋭のデバイスを一気に量産して使う」ことが必要なほどに市場が成長してくると、話が変わってくる。そうした変化が顕著になってきたのは2010年から11年頃、iPhoneでいえば「iPhone 4」「4s」あたりから、ということになるだろうか。

photo iPhone 4s

 そこからパーツ市場に影響が出るまでに、1年から2年が必要となる。

 Oculus Riftが最初のクラウドファンディングを実施したのが2012年。アクションカメラの代名詞となった「GoPro」のヒットが顕著となってきたのが画質がHD化した2011年頃から。スマホで操作するドローンの草分けといえる、仏Parrotの「AR.Drone」が出たのが2011年である。

photo AR.Drone

 見事にタイミングが合致しており、スマホの影響が大きかったことは明白だ。

 このような点を考えると、2007年のメタバースは「ほんの少しタイミングが早かった」という言い方もできるだろう。

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