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ソニーがBungie買収で手に入れたかった「とあるノウハウ」 勢い増すゲーム企業の買収合戦(3/3 ページ)

» 2022年02月03日 13時00分 公開
[西田宗千佳ITmedia]
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Bungieには「IP」と「クリエイター」がある

 買収の狙いはこれだけではない。

 同様に、重要なのは「IP」=権利を押さえることであり、同時に、次のIPを生み出す「開発力」を確保することでもある。

 Bungieのピート・パーソンズCEOは、リリースの中で次のように述べている。

 「BungieとSIEはいずれも、ゲームの世界というのは、私たちのIPの最初の一形態に過ぎないと思っています」

 すなわち、Bungieは映画化やドラマ化を含めた、多様なIPの活用方法があると考えており、そのパートナーとしてはソニーグループが良い……と考えた、ということだろう。ソニー・十時氏も「BungieはIPを大きく育てたい希望を持っている」とコメントしている。

 巨大で歴史の長い運営型ゲームは、ゲームを運営していく過程で、世界観を構成するために必要な要素を大量に生み出す。Bungieは「SF的な世界観」に特化しているものの、そうした手法を得意としている。

 Mac向け時代の主要作品である「Marathon」、マイクロソフト時代の「Halo」、そして現在の主力である「Destiny」シリーズには、それぞれ共通のモチーフが使われている。ちょっとしたファンサービス、といってしまえばそれまでなのだが、それがちゃんと馴染むくらい、じっくりと作られた世界観がそれぞれに存在する、ということでもある。

 筆者はそれぞれの作品についてそこまで熱心なファンではないが、プレイしたことはある。特にDestinyについては、多少プレイしただけで、大量のアセットと、それを生み出すための世界観を構築するコストが想像できて、圧倒されたのを思い出す。

 Destinyシリーズは現在「Destiny 2」となっており、運営開始からは8年が経過しようとしている。プレイヤー数は、「Steam全体でもっとも遊ばれているゲーム」トップ10に顔を出すほどであり、PCだけでもかなりのものだ。

Steamの統計ページより引用。2月2日、Steamでプレイされている数の多いタイトルトップ10の最後に、Destiny 2も入っている。

 SIEからみれば、人気のIPとそれを開発できる能力、大規模なネットゲーム運用ノウハウの3点をセットで傘下に置けるわけで、十分に価値がある買収だった、と考えているだろう。

 例えば、今回の買収の金額のうち、3分の1は「Bungieにいる従業員がそのままBungieに残ってくれるためのプレミアム」として使われる。Bungieには900人近くのクリエイターが在籍しているが、株式のほとんどはその従業員が持っているため、そこでプレミアムをつけて報いることで、買収後も人材・ノウハウの散逸を防ぐ手立てが採られている。

ソニーからBungieに支払われる費用の会計処理を解説した図。重要なのは、36億ドルのうち3分の1が、Bungieのクリエイターを引き止めるために使われる、ということだ。

案件の大型化によって「M&AとIP集約」は世界中で進む

 他方でBungieはDestinyの「次」となる新規IPを開発中であり、資金的な面での安定が必要だった、と考えられる。過去には2018年に、中国NetEaseと「新作に関するパートナーシップ」を締結し、1億ドルの出資も得ているが、SIEによる買収で財務基盤はさらに安定する。

 Destinyは2014年のスタート段階で5億ドル(約573億円)の予算をかけて開発したと言われており、これは当時の最高額でもある。新作がそれと同等以上の予算を必要とするなら、安定はなにより重要だし、ゲーム以外のコンテンツへの展開も必須のものとなる。

 IPへ投資するという意味では、ソニーやマイクロソフトに限った話ではない。

 今後、中国系企業の「中国の外での展開」はより活発になるだろう。中国国内での規制によって、中国向けゲームビジネスが厳しくなったため、その資金とビジネスの方向性は国外に向かわざるを得ない。NetEase Gamesは、特に日本国内のゲームクリエイターやゲームスタジオへの投資を加速している。もちろん、VR関連のゲームではMetaが買収戦略を採っているし、スウェーデンのEmbracer Groupは2019年以降買収戦略を加速し、多数のゲームスタジオを抱える企業グループとして存在感を増している。

 ゲーム関連事業の大型化により、M&Aによって企業自体が再編されて財務状況を安定させ、IPと人員を確保した上で次の戦略を練るのは、もはやどこにとっても基本路線といえるだろう。

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