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3Dプリントしたゼラチンをゲームコントローラーで操作 破損しても5回まで再印刷可能Innovative Tech(1/2 ページ)

» 2022年02月08日 08時00分 公開
[山下裕毅ITmedia]

Innovative Tech:

このコーナーでは、テクノロジーの最新研究を紹介するWebメディア「Seamless」を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。

 オーストリアのJohannes Kepler University Linzの研究チームが開発した「3D printing of resilient biogels for omnidirectional and exteroceptive soft actuators」は、3Dプリンタを使い、ゼラチンベースの生分解性ハイドロゲルを造形できる手法だ。

 印刷したハイドロゲルは、高い弾性と伸縮性を持ち合わせており、もし破損や寿命がきても最大5回まで分解し再印刷し直せるという。アクチュエータやセンサーを搭載することで、曲げ制御やタッチセンシングを可能にする。

(A)3Dプリンタの加熱方式の押し出しスキーム、(B)ハイドロゲルインクを積み上げている様子、(C)厚さ0.8mmのねじり花瓶、(D)柔らかい構造と低いヤング率により、曲げなどの変形が容易、(E)単線(〜0.6mm幅)の解像度テスト、(F)印刷した3Dオブジェクトは、分解しリサイクルできる

 今回は、FDM方式の3Dプリンタ(Makerbot 2X)を使って、フィラメントであるハイドロゲルインクを押し出し積み上げて造形する。ハイドロゲルインクは、押し出された後の形状を安定に保つのに冷却しなければならないため、室温を約10〜15度に下げて行う。これにより、ゲル化時間を数秒短くして冷却できる。印刷する1本の線の幅は、ノズル径やゲルの粘性、印刷時の冷却を考慮した結果、0.6mmとした。

 これにより、ハイドロゲルの高い弾性率(ヤング率0.3〜3MPa)と高い伸縮性(300%以上)を持つ3Dオブジェクトを造形可能とする。一般に、ソフトロボットの用途では、0.1〜10MPaの範囲のヤング率と200%を超えるひずみを求められることが多いが、この手法で造形したハイドロゲルは、日数が経過しても、それを満たすか上回る性能指標を有している。

 このような高い弾性率と伸縮性を出力できるのは、主となるゼラチンにグリセロールとシュガーシロップを導入し、クエン酸の添加によりpH値を調整して細菌の増殖を防いだことに起因しているという。

 研究チームは、材料の保管時間や再利用サイクル、加熱時間の影響を調べ、作製中の機械的特性を分析した。印刷直後のサンプルは柔らかく(ヤング率0.27MPa)、約507%のひずみまで伸縮可能であったが、その後、24時間後のひずみは470%とわずかに変化しながら硬くなっていった。

 時間の経過とともにゲルの水分の一部が蒸発し、5日以内に10%適度の重量減少を引き起こした。このときのヤング率は2.2MPaまで上昇した。それでも金型で作成するハイドロゲルの性能を140%程度上回っている。

 バイオゲルは熱可逆性であるため、破損や寿命がきたハイドロゲルは、水に浸して分解し、その材料を再加熱して新しいものを印刷することでリニューアルできる。研究チームは、サンプルを数回印刷し直し、その後のハイドロゲルの機械的特性に与える影響を調べた。

 その結果、分解し再度印刷するごとにヤング率が上昇したが、ひずみと応力は、それぞれ初期値の85%と72%にとどまった。6回目の再印刷では、ハイドロゲルが粘性を持ちすぎたために不連続な押し出しとなり、失敗した。この結果から5回までの再印刷が可能だと分かった。

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