経歴だけは長いベテラン記者・編集者の松尾(マツ)と、幾つものテック系編集部を渡り歩いてきた山川(ヤマー)が、ネット用語、テクノロジー用語で知らないことをお互い聞きあったり調べたりしながら成長していくコーナー。交代で執筆します。
マツ AppleがAI関連のスタートアップを買収するというのは特に珍しくもないんですが、これには注目してしまいました。
ヤマー AIを使った作曲ですか。社名もドストレートで分かりやすいですね。
マツ ですよね。驚きのストレートさ。でもせっかくのこの社名のWebサイト、もうアクセスできなくなっていて、どういうことをやっていたのか手掛かりがない状態。で、調べてみたんです。
ヤマー 調べてみたら結構面白かったと。
マツ Appleがスタートアップを買収することが分かると、その時点でサイトは消え、公式のアナウンスも特にないというのが通例なんですが、まだ残っている情報がいくつかあったんですよ。これが意外に最近で、1つは1年前のポッドキャスト。これがYouTubeに転載されています。
ヤマー え、そんな通例があるんですか? 痕跡を残さないと。
マツ ほとんどそうですね。例えばAndroid向けのサービスを展開していた場合は、収束までカウントダウンすることはあるけど、それに満たないようなところは即エンド。
で、このAI Music、意外なところにクライアントがいたんですよ。でも、これらのクライアントは切られることになるんだろうなって思ってます。
ヤマー Appleエゲつない……。基本買収した企業は、Appleのプロダクト専属ですもんね。他社もそうなんでしょうが。
その意外なクライアントとは……?
マツ AI Musicの自動音楽生成技術には3つの応用分野があって、1つは分かりやすくスポーツ。心拍数に合わせたビートミュージックを自動作曲するようなもの。
ヤマー お、すごい
マツ これはヤマハが先例を出してます。AIはうたってないけど。
専用音楽プレーヤー「BODiBEAT(BF-1)」。まあ早すぎましたよね。
ヤマー この製品知らなかったです。しかも13年前、ヤマハの悪い癖ですね……(先進的すぎる)。
マツ それでもiPhoneが出た後だったから、アプリで出せばよかったのでは、というのもありますが。
ヤマー 当時は3Gとか3GSですよね。使えるセンサーやSoCの処理速度的に、専用機じゃないと難しかったのかもしれませんね。
マツ その頃はそうだったかもですね。
もう1つは、ゲーム。ゲームのBGMに自分の好きな音楽ジャンルを使いたいというニーズがある、とAI Musicは踏んでいたようです。
ヤマー なるほど、好みの音楽ジャンルから自動作曲するってことですか?
マツ そういうことですね。
今でもPS5のBGMにSpotifyやApple Musicを使えるようにする機能がありますが、これもそうしたニーズがあるからこそそうしてるんでしょう。
ヤマー それを言われると、自分の好きな曲がゲーム中に聞けるなら自動作曲より良いかなとちょっと思っちゃいましたがw
マツ でも、それが必ずしもゲーム内容に合ってないこともあるので、そこはちゃんとゲームの流れに合ったものである方がいい。
で、3つ目。これが、広告なんですよ。
ヤマー へーー! それは意外というか面白いですね。AI Musicはどういうシーンを想定してたんでしょうね。
マツ 広告に使われる音楽をパーソナライズできるようにするというもので、例えばその前にレゲエを聴いていたら、音声広告でもレゲエの曲が入るとかして、広告の音楽が嫌いだから再生を止めるってことが減るようにする。
ヤマー ネット広告だと、動画再生中などの広告を想定してるんですかね。基本ネット広告って無音環境で見ることが多い気がして。
マツ 最近はポッドキャストの音声広告も増えてきているので。
ヤマー あ、なるほど。そのニーズはまさしくですね。
マツ ターゲティング広告会社と組んで、さまざまな音楽スタイルをユーザーのシチュエーションや好みに合わせてカスタマイズし、A/Bテストを実施したところ、クリック率が2.5倍になったと言ってましたね。
ヤマー 音楽だけでそんなに影響が。
マツ 音声だけが手掛かりのメディアだから、そこに嫌な要素があると、それだけで止めちゃいますからね。でも、Appleはターゲティング広告そのものに厳しい規制を強いているので、これをAppleのエコシステムに組み込むというのはまずありえないですね。というわけで、この3つ目の利用はないと踏んでます。
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