ITmedia NEWS > 企業・業界動向 >
ITmedia AI+ AI活用のいまが分かる

ソニーがグランツーリスモ攻略AI発表、強さと“マナー”を両立 トップ選手「初めて勝ちたいと思えた」 アップデートで一般提供予定

» 2022年02月10日 04時30分 公開
[谷井将人ITmedia]

 「初めてAIに勝ちたいと思えた」――カーレースゲーム「グランツーリスモ」の世界大会で優勝経験を持つ山中智瑛選手は、ソニーが開発したレースAI「グランツーリスモ・ソフィー」と対戦してそう語った。

photo 山中智瑛選手(2月10日、ソニー発表会にて)

 ソニーグループのソニーAIとソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)、SIE子会社のポリフォニー・デジタルは2月10日、「深層強化学習でグランツーリスモのチャンピオンドライバーを凌駕(りょうが)する」という論文が、同日付で英科学誌Natureに掲載されたと発表した。同号の表紙も飾っている。

 この論文の研究成果であるレースAIのソフィーは、ただ勝つだけでなく、レースにおけるマナーを守りながら世界トップランカー以上のパフォーマンスを見せることを目指して開発されたAIだ。

 AIの学習にはSIEが持つクラウドゲーミング用のインフラを活用。グランツーリスモを多重起動して学習の試行回数を確保した。ソフィーは対戦相手の動きや車両の空気抵抗などの状況から、ステアリングやブレーキの操作を学習していった。

photo グランツーリスモをプレイして学習を重ねた

 ソフィーがコースを走れるようになるまでに1日、人間の上位5%に匹敵するスコアを出すまでに2日、トップランカーレベルになるまでにさらに10〜12日間かかるという。1コース当たりの学習でソフィーは合計約30万kmを走行する。

人間には勝てるがマナーが悪かったソフィー

 2021年7月と10月にはトップ選手4人とソフィー4体が直接対戦。7月は人間チームが勝ったが、10月にはソフィーが人間に全試合で1位を獲得。ダブルスコアを付けて優勝した。

photo 7月、10月の成績

 当時のソフィーは、人間を超える圧倒的な速さでレースに勝ったものの、人間はしないような常識的でないプレイングをしており、レースマナー、選手へのリスペクトの面で進化が必要だったという。

 最新のソフィーは、速く走るテクニックに加えてレーシングエチケットも学習。好戦的なレースをしながらフェアプレーを守るようバランスを調整した結果、マナーを守りながら相手を追い越せるようになった。

 2月10日のエキシビションマッチでは、トップレーサー4人とソフィー4体が対戦。レースは、3番手に付けたソフィーが2番手の選手を終始攻めつつ、4番手の選手の攻撃を押さえ込むコース取りで展開。カーブでは人間以上にインコースギリギリを攻めたが、実況によると「無理に行こうとしていないところが、マナーの面で成長を感じられる」「10月のときはさらにインに入ってきていた」という。結果はソフィーが1着、人間が2着となった。

photo 前を攻めつつ後ろを守るソフィー

 2着に入った山中選手は「正直悔しい。今までAIと戦ってきた中ではなかった感情。今回初めてAIに勝ちたい、絶対に抜かせたくないという感情が出てきたのは、ソフィーが人間らしく、良きライバルとして走れたから」と評価した。

「人と互いに学び合う存在に」

 ポリフォニー・デジタルの山内一典社長はソフィーの開発コンセプトについて次のように語った。

 「単に人間に勝つだけではつまらない。プレイヤーにとって友達や仲間、相棒のような、共感を得るような、互いに学び合う存在になってほしい。人の心を揺さぶり、互いにリスペクトでき、人間にとってポジティブな効果をもたらすものであってほしい」

photo ポリフォニー・デジタルの山内一典社長(2月10日、ソニー発表会にて)

 ソフィーの開発では、人間と同等かそれ以上に速いこと、レース中で常に妥当な振る舞いを見せること、人間から見て自然に思えることを重視したという。

 今後は、AIが意味や意図を持っているような振る舞いを見せること、人を啓発するような創造性を持たせること、倫理性を感じさせるものを目指すとしている。ソフィーの技術は「中期的には、他のゲームスタジオにもパートナーシップを広げていきたい」(山内社長)という。

アップデートで提供予定

 ソフィーは今後グランツーリスモ7のアップデートでプレイヤーに提供する予定。「ソフィーはプレイヤーにドライブを教えるコーチ、プレイヤーから人間性を学ぶ生徒、一緒にレースをする友達として提供する」(山内社長)としている。

 現在はソフィーとの対戦の難易度調整を研究中で、具体的な実装時期は未定。山内社長によると「どうやって人を楽しませるのかということが直近の課題。あらゆる状況に応じて人と一緒に楽しむようなAIになる」という。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.