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VRヘッドセットとキーボードが合体、両手でこめかみをタイピング 芝浦工大とNTTドコモが開発Innovative Tech

» 2022年04月05日 08時00分 公開
[山下裕毅ITmedia]

Innovative Tech:

このコーナーでは、テクノロジーの最新研究を紹介するWebメディア「Seamless」を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。

 芝浦工業大学真鍋研究室とNTTドコモの研究チームが開発した「HMK: VR/ARテキスト入力用ヘッドマウントキーボード」は、VR HMD(ヘッドマウントディスプレイ)のストラップ両側に左右分離型キーボードをそれぞれ設置した効果的なタイピングシステムだ。HMDを装着して机上のキーボードを直接視認できない状態でタイピングした場合と比較して、90%以上のタイピング速度を達成した。

プロトタイプを装着しタイピングしている様子

 VR/AR環境でも文字入力が必要な場面があるため、バーチャル内にバーチャルキーボードを配置した、さまざまな入力方法が提案されている。だが、これまで慣れてきた机上での物理キーボードの使いやすさやタイピング速度には及ばないだろう。またVR/AR環境であれば、机上に物理キーボードを置くのではなくウェアラブルなデバイスにしたい。

 そこで研究では、VR HMDの両側にあるストラップ部分に左右分離型キーボードをそれぞれ配置する手法を提案する。着用者は両手を上げ、右手で右側のキーボード、左手で左側のキーボードをタイピングするスタイルだ。

 プロトタイプでは、市販のCorne Cherry分離型QWERTYキーボード(横6×縦3キーのcolumn staggered配列+親指3キーの左右分離型キーボード)を使用する。このキーボードの左右をOculus Quest 2の左右にあるストラップにそれぞれ設置する。着用者からキーボードが見えないため、キーボードの範囲を把握しやすくするようにキートップの外側に壁を付け、さらにFとJキー(人差し指を置くキー)に小さな突起を付けた。

試行錯誤したプロトタイプ。(左)ver1、(中央)ver1.5、(右)ver2

 このセットアップをver1としてタイピング速度の実験を行った結果、平均20.82WPMであった。Oculus Quest 2のデフォルトの文字入力手法であるコントローラポインティングの9.63WPMとヘッドポインティングの7.96WPMを大きく上回る結果となった。

 しかし、ホームポジションの位置はまだ分かりにくいというコメントがアンケート結果から得られたため、さらなるキートップの改善を行った。提案するキーボードのホームポジションは中央に位置しているため、ホームポジションの表面は平面に、周りのキートップは中心側に(ホームポジションのキーに向けて)へこませた。これにより、キーボードの中央に指が自然に誘導されるようになった。これをver1.5とした。

 ver1.5のタイピング速度を計測した結果、HMDを装着して机上のキーボードを直接視認できない状態のタイピングで平均43.6WPM(エラー率7.6%)のところ、このシステムでは平均34.7WPM(エラー率11.7%)となり、81%のWPMを達成した。

実験時の様子。(左)机上にキーボードがある通常のタイピング、(中央)提案手法、(右)VR HMDを装着した状態で机上のキーボードをタイピング

 最終のver2では、特殊なキーボードレイアウト(column-staggered)を一般的なレイアウト(row-staggered)に変更した。その結果、HMDを装着して机上のキーボードを直接視認できない状態のタイピングと比較して、90%以上のWPMを達成した。HMDを装着せずに机上のキーボードを直接視認できる状態のタイピングと比較した結果は、65%のWPMであった。

出典および画像クレジット: Wahyu Hutama, 原島 輝, 石川 博規, 真鍋 宏幸. “HMK: VR/ARテキスト入力用ヘッドマウントキーボード” 研究報告ヒューマンコンピュータインタラクション(HCI), 2022-HCI-197, 2号, 1-8ページ.



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