3月末に出た日本レコード協会の年次レポート「日本のレコード産業」からは、いろいろな情報が読み取れる。
Business Insider Japanに掲載した記事「日本も『音楽ストリーミング』拡大期に入った。日本レコード協会のデータから読む音楽産業の現在地」では、レポートの数字を読み解き、日本の音楽産業がどのような状況にあるかを分析している。
ここでは予測も交え、もう少し深い話をしてみようと思う。
この記事は、毎週月曜日に配信されているメールマガジン『小寺・西田の「マンデーランチビュッフェ」』から、一部を転載したものです。今回の記事は2022年4月4日に配信されたものです。メールマガジン購読(月額660円・税込)の申し込みはこちらから。さらにコンテンツを追加したnote版『小寺・西田のコラムビュッフェ』(月額980円・税込)もスタート。
現在、日本の音楽ビジネスは、「本格的なオンライン中心型への移行期」にある。
いまだCDを中心とした物理メディア販売が主流であるものの、その販売金額は減少中。2012年以降の数字を見ると、2、3年単位でガクッと減っている感じで、音楽ビデオはほぼ横ばい。
オンラインコンテンツについては、ダウンロード売上が減少し、ストリーミングサービスからの売上が順調に伸びている状況である。年の成長率は26%。2年連続の26%成長で、その前は2017年以降30%台の伸びだった。
伸びは大きなものであり、物理メディアの販売数量減少よりも急激だ。単純に「CDを買わなくなって配信を聞くようになった」だけではない。おそらくは、CDの売上減少よりも強い勢いで有料ストリーミングサービス契約者が増えており、市場減速を補っていると考えられる。ただし、まだ、音楽市場全体が「増加」に転じるほどではない。
重要なのは、この伸びがどこまで維持されるのか、ということだ。
最終的な利用者数は結局人口に左右されるので、どこまでも伸びていくことはあり得ない。現状の有料ストリーミング配信利用者数が正確にどのくらいの数字かを示す統計はないが、累計で一千数百万人程度と推計できる。おそらくまだ伸びしろはあり、数年は2桁成長を維持できそうだ。とはいえ、利用料金が劇的に上がらないと想定される以上、定額である有料ストリーミングサービスからの収益に限界はある。
音楽産業としての収益は、サービス事業者からの利用料によって決まる。利用料は再生数に応じたものである。再生数をとにかく増やすこと、再生されるコンテンツがより付加価値の高いものであることなどが重要になるだろう。
以前は、ハイレゾや空間オーディオなどの楽曲は「高付加価値」であり、ユーザーから支払われる利用料も高いものになると予測されていたが、2021年にAppleとAmazonが自社サービス内で「追加料金を取らずに」ハイレゾ・空間オーディオの提供を始めたため、おそらく今後、同様の内容でサービス料金を上げることは難しい。高付加価値楽曲は「再生数を増やす」要素と考えるのが妥当だろう。
1曲あたりの収益を単純に高めるためなら、高音質・高付加価値楽曲は「より高い価格」で提供されるべきだったろう。
一方で、高音質楽曲が高価なら、利用者の数は限定されてしまう。
ストリーミングミュージックの生み出した変化は、「楽曲をとにかく再生してもらえば収益につながる」という手軽さであり、米国での事例を見る限り、単純にCDを売るよりもそちらの方が全体収益は高くなる可能性が高い、ということだった。高音質であることでさらに再生を増やせるのであれば、さらに加速する可能性が高い。
ハイレゾストリーミングサービスに対応した、ハイクオリティオーディオプレイヤー、たとえばソニーの「NW-WM1ZM2」などは、確かに高価で、限られた人の買う製品である。だが、その利用を促進するには、どんどん大量のハイレゾ楽曲が提供される必要がある。同じ楽曲は一般的なスマホでも聴けるが、同じものが「どう違って聞こえるのか」を比べて楽しめることが、音質にこだわったハードウェアの価値をより高める。楽曲が大量に提供されるエコシステムの整備によって、ハードの意味もまた変わってくるのだ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR