もちろん懸念はある。
ストリーミングサービスは1曲1再生あたりのアーティストへの還元額が小さい。サービスによって計算方法も額も違うのだが、1曲1再生だと1円を大きく切るところがほとんどと見られる。そのことがアーティストの収益を圧迫する……と言われており、少なくともヒットを持つ人とそうでない人の格差が大きくなるのは間違いない。
ただ日本の場合、そもそもの産業構造の課題も大きい。
以下は日本レコード協会が公開している「音楽メディアユーザー実態調査」の2021年度版からの抜粋だ。
ご覧の通り、楽曲に触れる方法としてYouTubeが圧倒的だ。
オンライン化の進展が、日本と海外では違っていた。
海外はCDからすぐに、「iTunes Store」などでのダウンロード販売が盛り上がった。その後にYouTubeが立ち上がったため、音楽に触れる習慣として、まず「買う」「YouTube」「ストリーミング配信」という流れで広がった。
一方日本では、2000年代には「着メロ」「着うた」が消費の軸として立ち上がり、PC向けのダウンロード販売は盛り上がらなかった。
フィーチャーフォンが中心だった「着メロ」「着うた」市場が消える中、盛り上がったのがYouTubeである。結果的に、音楽が無料で消費されるものになり、なかなか有料へとは移行してこなかった。
YouTubeも広告によって収益化し、権利者への還元が進みつつあるのだが、その額は、有料ストリーミング配信からの配分よりもさらに小さい。
現在、ストリーミング配信への移行が進んでいるが、それはやはり権利者としても、「広告モデルよりは収益が得られるから」に他ならない。いったん消費者を無料に移行させてしまったところからどう持ち直すかが、最大の課題である。
現状、「音楽メディアユーザー実態調査」を見る限り、新しく音楽に触れている若い層は順調にストリーミング配信の存在を受け入れていて、そこが市場を牽引している。むしろそこの上の世代をどう引き込むかがポイントになるだろう。
そもそも、日本は音楽消費が極端に若年層に偏っており、そのことも問題だといえる。だとするならば、長い目で見たうえで、ここからファンとどう関係を築くか、という点がポイントになるだろう。
また、消費全体を見ると、コンサートなどへの出費は決して状況が悪いわけではない、というのも見えてくる。ストリーミングサービスで音楽を聴いた人がCDを買い直す例は少ないようだが、新しい楽曲との出会いは確実に、ハードルの低いストリーミングサービスから生まれている。
海外を見ても、ストリーミングで曲と出逢い、そこからファンになってもらってコンサートや物販につなげるのが鉄板の流れだ。先日Appleは、自社内の音楽検索サービス「Shazam」に、コンサートディスカバリー機能を搭載している。耳にした曲から、その曲の名前だけでなく、アーティストとコンサートの情報を見つけるわけだ。こうしたことは各社模索しており、さらに、映像配信によるコンサートと連動する動きもある。
コンサートに来ることを考えてくれるのは、非常に重要なファンである。音楽ビジネスがオンライン化していく中では、過去に存在していたCDからコンサートまでのギャップをいかに埋めるかが重要になるのは間違いない。
そうすると、単純に再生回数で生まれるのではないビジネス価値も立ち上がり、ストリーミングサービスの弱点を補完することにもなりそうだ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR