10数本デジタイズした後で、このカセットテープを見つけた。
テープはTDKのSA46。ちょっと高音質なハイポジションだ。ラベルには曲名「Time After Time:Fez」とある。「Time After Time」はシンディー・ローパーの1984年のヒット曲。「Fez」はスティーリー・ダンのナンバーで、「トルコ帽もないのに」という邦題が付いているが、このFezというのはとあるものの隠語で……。まあ、それは置いておこう。
その下には「4 trx dbx off」と書いている。dbxというのはDolby B/Cと並んでカセットデッキのノイズリダクション技術として採用されていて、これはオフにしているということだ。
4 trxというのは、4トラックを意味したつもり。
カセットテープは通常ステレオの左右2トラックだ。カセットは原理上、テープ幅の半分をさらに半分ずつ左右のステレオに割り当てている。残りの半分は、カセットをひっくり返したときに使う。だから、A面とB面が存在しているわけだ。
だが、このカセットは4トラックが記録されている。A面用、B面用のテープ領域に同時に書き込むという荒技を繰り出す特殊なレコーダーによって録音したものなのだ。
録音に使ったレコーダーは今も手元にある。TEACの「TASCAM PORTA ONE」だ。
やった! これで再生……とはいかない。壊れてるので。
とりあえず、通常のステレオカセットデッキで再生して、ついでにデジタイズしておこう。
A面を聴いていると、お遊びでシンセをギター風に弾いているインストに続いて、Time After Time。妻のボーカルが入ってる。これは以前聞いた、ミックス済みのやつか。と思ったら、自分のコーラスパートがない。
A面をAudacityに取り込んだ後、カセットをひっくり返してB面を聞いてみる。逆回転のボーカルが聞こえる。右は僕の声、左は妻の声のようだ。カセットMTRはB面用のテープ領域に3番目と4番目のトラックを記録する。だからB面を通常のカセットデッキで再生すると、3、4トラックが逆回転で聞こえるというわけだ。
とりあえずA面、B面ともにオーディオデータにした。そして、B面は左右反転させて、つまり逆回転を正常に復元した。
これは妻のボーカルだ。
カセット録音ではあるけれどもちゃんと21歳の、結婚前の妻の歌声だけが入っているトラックが手に入った。いわゆるIsolated Vocals。ついでに25歳の自分の歌声トラックも入手できた。
この曲を録音したのはおそらく1984年。シンディー・ローパーのオリジナルがヒットした年のはずだ。PORTA ONEが発売されたのもこの年だった。Macintoshが世に送り出された年でもある。
そしてこれが、妻の歌声の最後のピース。
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