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“液体”でリアルタイムAI学習 環境音に最適化、低消費電力でエッジデバイス応用に期待

» 2022年05月02日 17時33分 公開
[井上輝一ITmedia]

 独自開発した液体に音の信号パターンを与えることで高速にAI学習する──東京理科大学と産業技術総合研究所の研究グループが、4月28日にこんな研究成果を発表した。コンピュータのみでの処理に比べて消費電力を低く抑えられ、処理も高速に行えることからエッジデバイスでのAI学習への応用が期待できるという。

リザバーコンピューティングの概念図(a)と、入力に対する適切なリザバー出力(b)

 ニューラルネットワークの中間層を、コンピュータの代わりに物理系の作用を使って情報処理する手法は「リザバーコンピューティング」と呼ばれている。その例として研究グループは「貯水池(リザバー)の水面に石を投げ込んで生じた波紋のパターンは、投げ込んだ石のサイズや投げ込む順序を反映することから、石の時系列情報を推測できる」と説明する。

 研究グループは、生活環境で聞こえる人の声などの周波数に適した、イオン性の液体を開発。入力をパルス信号で与え、液体を通過して電流として応答する際に、電流の減衰時間に入力の特徴が反映されるように調整した。

リザバーコンピューティングに適した液体のカチオン側で、側鎖の長さを調整することで粘性を制御した

 画像認識タスクとして、代表的な手書き文字のデータセット「MNIST」を縦にスライスし、パルスパターンに変換して素子に与えたところ、最大で90.2%の識別精度に達したという。

MNISTの手書き文字データセットを縦にスライスし、パルスパターンに変換することで学習を実施。最大で90.2%の認識精度を示した

 実験に使った液体は揮発しにくく燃えにくいことから、安全性の高いエッジAIデバイスへの応用が期待できるとしている。

 研究成果は、国際学術誌「Scientific Reports」に4月28日付でオンライン掲載された。

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