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言論の自由かコンテンツ規制か――銃撃映像ネットで拡散、模倣犯後を絶たずこの頃、セキュリティ界隈で

» 2022年05月25日 12時00分 公開
[鈴木聖子ITmedia]

 TwitterやYouTube、Facebook、Instagram、LINE、TikTokなど、大手SNSサービスでは暴力的なコンテンツからユーザーを守るため、さまざまなガイドラインが定められている。一方で、匿名掲示板の4chanなどのWebサイトは、大手から締め出されたユーザーが過激な内容を共有できる場として存続。そこで見たコンテンツから刺激を受け、犯罪に手を染めるユーザーが後を絶たない。

 米ニューヨーク州バッファローのスーパーマーケットで起きた銃乱射事件。10人を射殺した容疑者の少年(18)は、過去の大量射殺事件の映像をネットで見て刺激され、自分もまねして犯行の様子を米Amazon傘下のTwitchで生中継していたとされる。その内容は4chanを通じ、瞬く間に拡散された。

 報道によると、バッファローの事件ではスーパーにいた買い物客など13人が銃撃され、10人が死亡した。被害者のうち11人は黒人で、捜査当局は人種差別を動機とするヘイトクライムとして捜査している。

 容疑者の白人少年は、ヘルメットに取り付けたカメラで銃撃の様子を撮影し、Twitchで生中継していた。その犯行は、2019年に51人の死者を出したニュージーランドのモスク銃撃事件をまねたものだった。

CNN「4chanは『憎悪に満ちたオンラインフォーラム』」

 容疑者は事前にネットに投稿した文書の中で、4chanを見て人種差別投稿や憎悪投稿、武器フォーラムに刺激され、今回の犯行の計画も4chanを見て思い付いたと記していた。ニュージーランドの銃乱射事件の映像は直後に削除されたはずだったが、ネット上で大量に拡散され、いまだに見ることができてしまう状態にあるという。

CNNの報道の様子

 今回の事件でも、Twitchに投稿された実況映像はすぐに削除された。ここだけにとどまっていれば閲覧したのは20人程度にとどまっていたはずだったが、4chanのフォーラム経由でコピーが拡散され、容疑者に対する称賛や支持のコメントが集中した。

 さらに、4chanと似たような「Gab」「Kiwi Farms」といったコミュニティーサイトでもこの映像や容疑者の主張が拡散され、「Streamable」というサイトでは削除されるまでに300万回以上再生されたと伝えられている。FacebookやTwitterなどの大手SNSには、問題の映像へのリンクが次々に掲載された。

 4chanやスピンオフサイトの8chan(8kun)は、これまでにも繰り返し、銃乱射などの凶悪事件との関係が指摘されてきた。2021年1月の米議会議事堂暴動を引き起こした陰謀論「QAnon」も、4chanが発祥といわれる。

 こうした経緯からマスコミは4chanを「憎悪に満ちたオンラインフォーラム」(CNN)、「過激派のオンラインフォーラム」(Guardian)と形容する。

Guardianの記事

なぜ、暴力的なコンテンツの拡散は止まらないのか?

 FacebookやTwitterなどの主要SNSは、ヘイトスピーチや誹謗中傷、陰謀論などの投稿を禁止するポリシーに従い、今回の犯行に関連したコンテンツについても削除を急いだ。

 一方、4chanのようなサイトはユーザーが投稿する内容に対して基本的に介入も削除もしない。そうした現状について専門家は「こうした抵抗勢力のようなプラットフォームが存在する結果、もぐらたたきゲームは決して終わらない。必ずどこかで(問題のコンテンツが)出回ってしまう」(英シンクタンクISDのティム・スクイレル氏)とCNNに解説している。

 8chanの場合、NZのモスク銃撃や同じ年に米テキサス州で起きた銃撃などの犯行予告に利用されたことから風当たりが強まり、CDN大手の米Cloudflareにサービスを打ち切られていったんは閉鎖状態に追い込まれた。しかしその後、別のプロバイダーのサービスを利用して、8kunとして浮上している。

 大手SNSであれば、広告主や株主の圧力の影響も受けるが、4chanのようなサイトはそうした圧力にもほぼ無縁。「言論の自由」をたてに投稿を野放し状態にしているプラットフォームや、それを支持するプロバイダーは常に存在する。

 コンテンツ規制か言論の自由かを巡る論議はイーロン・マスク氏のTwitter買収でも脚光を浴びたが、簡単には結論は出ない。いずれにしても、暴力的なコンテンツを削除しようとすることは「ダムの水漏れを指でふさごうとするようなもの」(コロンビア大学のエブリン・ドゥエク氏)と専門家はNew York Timesにコメントしている。今後もネットに残り続ける動画をまねて、同じような犯行が繰り返されることを関係者は危惧している。

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