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スマホでつぼを作れる? “バーチャル陶芸”を体験 古代ギリシャの名品を再現するまで遊んで学べる「Experiments with Google」(第9回)

» 2022年05月28日 09時30分 公開
[佐藤信彦ITmedia]

 「Experiments with Google」は、Googleが人工知能(AI)や拡張現実(AR)といった最新技術の可能性を示すために、実験的な応用例を紹介するショーケースだ。膨大なコンテンツを公開しており、その多くはスマートフォンやPCで試せる。

 この連載では、多種多様な応用例の中から興味深いものをピックアップ。実際に遊んだ体験レポートを通して、裏側にある技術を解説しつつその可能性を探る。

 読者の皆さんも、ぜひ自分の手で試しながらその仕組みを学んでもらえたらうれしい。きっと、最新技術の魅力に気付くはずだ。

古代の傑作を“手作り”できる バーチャル陶芸「3D Pottery」

 前回はAIの力を借りてキャラクターの絵を描いてみたが、基本的な画力が足りない筆者には荷が重かった。絵は諦めよう。

 気持ちを切り替え、今回は立体作品に挑戦する。試すのは“バーチャル陶芸”で遊べるWebアプリケーション「3D Pottery」だ。

 3D Potteryを使えば、PCやスマートフォンの画面上で陶芸を体験できる。粘土の塊が「ろくろ」の上でクルクル回転しているので、そこから成形、絵付け、焼き、という一連の工程を仮想的に体験できる。

photo バーチャル陶芸を楽しめる3D Pottery(出典:Google)

 簡単に陶芸を体験できるが、自分の好きな形の陶磁器は作れない。3D Potteryは、お題を手本にして似た形のつぼを作るコンテンツだ。お題は、世界各地のさまざまな時代の傑作を集めている。そして最後に、どれだけ上手に作れたか点数で評価される。

photo 3D Potteryのお題(一部)

粘土を成形して絵を付けて――スマホで陶芸体験

 バーチャル陶芸は、絵を描くより簡単そうだ。それでは早速、「LAUNCH EXPERIMENT」を押して始めてみよう。

photo スマホでプレイしてみた(3D Potteryのトップページ)

 最初のお題は、古代ギリシャのテラコッタ(粘土の素焼き)だ。教科書で見た気がする。2つの取っ手に施された細かい模様や、側面に描かれた人の姿が緻密で美しい名品だ。バーチャル体験とはいえ、これほど凝ったものを作れるのだろうか。

 少し不安になったが、心配はなかった。最初に表示されたのはあくまでもオリジナルで、実際に作るのはオリジナルを簡素化した見本だからだ。見本の方は、オリジナルの雰囲気を踏襲しつつもシンプルな作品なので、作れそうな気がする。

photophoto オリジナルのつぼ(左)と、オリジナルを簡素化した見本(右)

 作業の第1段階は、画面右上の見本を参考に、丸い粘土からつぼの形を作り出す。左下ある操作ガイドに従って粘土の中央をへこましていくと、意外と簡単にそれらしい形になった。3Dグラフィックスで表現されていて、内部を見ながら作業できるので加工しやすい。

 大まかな形ができたら、今度は外側を絞るようにして“くびれ”を作り、全体の形を整える。見本よりズングリした形になってしまったが、まあよしとしよう。きっと本物の粘土とろくろを使っていたら、力加減が難しく繊細な作業で何度も失敗したはずだ。

photophoto 粘土の塊を基に(左)、つぼの形を整えていく(右)

 第2段階は、ろくろを止めて取っ手を付ける工程だ。表面から粘土を引き延ばすように1つ目を作ったら、反対側にも同じ形の取っ手をコピーするだけなので、あっという間にできた。

 第3段階は、絵付けだ。再びろくろが回るので、まず下地の黒色で全体を塗ることにした。茶色で塗る取っ手まで黒くなってしまったが、これは後で修正すればいい。

 次に模様を描いていく。水平のラインはろくろを回したまま簡単に描けた。問題は中央部分の絵だ。ろくろは止められないので、じっくり描くことはできない。ブラシを近づけたり遠ざけたりして、それらしい模様を入れるしかない。ここは妥協しよう。

 最後は、いよいよ窯に入れて焼く。火を入れて真っ赤に変わる様子が美しい。実際の陶芸の場合、焼くことで色が変わったりするが、そこまでは再現していないらしい。

photophoto 色を付けて模様を描き(左)、窯の中で焼く(右)

 つぼが焼き上がったら、いよいよ採点だ。形と色、取っ手の出来具合で評価される。今回は100点満点のうち74点だった。オリジナル作品と並べたら見劣りするが、見本から懸け離れていないので、初めてにしては上出来、上出来。

3D Potteryでつぼを作る様子。初めてにしては悪くない

自宅のテーブルでつぼ作り ARモードでリアルな陶芸気分を味わう

 3D PotteryはPCでも遊べるが、Androidスマホでプレイすると楽しさが増す。というのも、AR機能を使って自宅のテーブル上で陶芸をできるからだ。AR陶芸をするには、最初の画面で「Start in 3D」でなく、「Start in AR」を選べばいい。

 今回作るのは、古代ペルーのつぼだ。スタートすると、スマホのカメラが周囲の様子を写し、平な場所を探すよう指示があった。テーブルにカメラを向けたところ、無事に粘土が出てきて作業をスタートできた。

 つぼを作る手順は変わらないが、AR版はスマホの向きを変えるとそれに合わせて視点が動き、粘土をいろいろな方向から見られて面白い。特に形や模様の確認をしやすくなった。テーブルの上にきちんと影ができるなど、本当に粘土があると錯覚するほどだ。

 作ったつぼの点数は71点。高得点ではないが、本当に陶芸をしているような気分を味わえて、とても楽しめた。

photophoto テーブルの上でバーチャル陶芸をする様子。カメラを動かすと視点も変わる
3D PotteryのAR版を試した様子。自宅のテーブルの上だが、リアルな陶芸気分を味わえた

美術品や陶芸の入口になる最新技術

 3D Potteryは、Webブラウザ上で3Dグラフィックスをレンダリングできる「WebGL」とそれを手軽に使えるJavaScriptライブラリ「Three.js」を活用している。粘土を成形する操作をすぐ反映できるのはこのためだ。

 この3D PotteryはWebGLやARの可能性を示す役割を担っているだけでなく、米Googleのアート紹介プロジェクト「Google Arts & Culture」の一環でもある。バーチャル陶芸をゲームとして楽しみつつ、お題になった作品の概要や収蔵美術館、関連作品を調べて学べる。

 例えば最初に試したお題は、古代ギリシャの「アンフォラ」という形式のつぼで、ワインを入れるために使われた。紀元前530年ごろの作品で、現在はメトロポリタン美術館が所蔵している。2回目のお題は古代ペルーのつぼだった。3D Potteryではこの他に北米と中国、エジプト、オーストラリアのつぼがお題になっている。

photo お題の詳細を確認すると、このつぼはメトロポリタン美術館にあると分かる

 美術作品は傑作を愛でるのもいいが、こうして自分の手で疑似体験できると関心がさらに高まると分かった。十分な道具や技術がない時代に美しい作品をどうやって作ったのか、このつぼを使っていた人々はどんな生活をしていたのか――想像がどんどん膨らんでいき、気が付くとGoogle Arts & Cultureの解説を次々とたどっていた。

 陶芸の入口としても優れている。こうした作品作りに興味のなかった筆者でも、今度初心者向けの体験会に参加してみようかという気になったほどだ。バーチャルな体験を通して、実際のものに興味や関心を持ってもらう取り組みは効果が高いのかもしれない。

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