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「室内で動く人をWi-Fiで監視できる攻撃」を妨害するデバイス 検出率を5%以下まで低下Innovative Tech

» 2022年06月06日 08時00分 公開
[山下裕毅ITmedia]

Innovative Tech:

このコーナーでは、テクノロジーの最新研究を紹介するWebメディア「Seamless」を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。

 ドイツのMax Planck Institute for Security and Privacy、ドイツのRuhr University Bochum、ドイツのUniversity of Applied Sciencesの研究チームが開発した「IRShield: A Countermeasure Against Adversarial Physical-Layer Wireless Sensing」は、Wi-Fiなどの無線信号を外部から取得し屋内で動く人の監視を妨害するデバイスだ。

Wi-Fiルーターの隣に置いているのが今回開発されたデバイス

 部屋にあるほとんどのIoTデバイスは、高周波の無線信号に基づくワイヤレス接続に依存している。データの機密性を確保するために暗号化技術がすでに使用されているが、盗聴者は、傍受した無線周波数(RF)信号から部屋の中で人が動いているかなどの情報を取得できる。

 これはRF信号の伝搬が機器の物理的な環境、つまり壁や物、存在する人からの反射の影響を受けているからだ。盗聴者は、このような伝搬効果をリモートで観察し、屋内の状況を把握する。

屋内環境における無線信号の伝搬のイメージ図

 このような攻撃を「敵対的ワイヤレスセンシング」と呼び、実験により実証されている。例えば、ある実験では通常のWi-Fi信号をスニッフィングするだけで、建物内の人の動きをきめ細かく検知・追跡できることを実証した。

 この攻撃に対応するために研究チームは、入射する電波を動的に操作するデバイスを開発した。このデバイスを室内に配置することで、無線伝搬をランダム化し傍受されても解析が難しい状態にし、妨害する。

 デバイスは、43×35cmのPCB基板上に16×16のアレイで反射素子が配置され、裏面にはそれらアレイを制御する回路が配備されている。裏面のマイクロコントローラーによってデジタル的に制御され、PINダイオードによってRF反射率を電子的に切り替える。

(左)制御回路がある裏面、(右)反射素子がある表面

 研究チームは市販のWi-Fiデバイスを使った人体運動検知攻撃において、このデバイスで妨害できるかをテストした。その結果、Wi-Fiデバイスに対する最先端の攻撃にもかかわわらず、検出率を5%以下にまで低下させた。

Source and Image Credits: P. Staat, et al., “IRShield: A Countermeasure Against Adversarial Physical-Layer Wireless Sensing,” in 2022 2022 IEEE Symposium on Security and Privacy (SP) (SP), San Francisco, CA, US, 2022 pp. 1526-1526. doi: 10.1109/SP46214.2022.00097



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