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AIは食糧危機を救えるか? 農作物収穫のメリットと、サイバー攻撃などによる新たなリスクウィズコロナ時代のテクノロジー(1/3 ページ)

» 2022年06月08日 08時00分 公開
[小林啓倫ITmedia]

 COVID-19のパンデミックは食糧供給にも大きな影響を与えている。農作業の担い手が減り、多くの都市でロックダウンや港湾の封鎖が発生したことで、物流がストップし、せっかく生産した食糧を産地から出荷できなかったり、輸出先で受け入れられなくなったりといった具合だ。

 国際連合食糧農業機関(FAO)は、COVID-19が世界の各地で食料品のバリューチェーンを混乱させ、さらに環境破壊など既存の問題と結びついたことで、世界的な食糧危機が加速したと分析している。

FAOが制作した、パンデミックが食糧危機に与えた影響を解説する映像

 そこで期待されているのが、AIによる農業の後押しだ。農業分野でもかねてデジタル化が進んでおり、IoTや高度な通信技術、さらには人工衛星などを活用することで、大量の関連データを入手可能な状態になっている。

 それらのデータをAIに与えて、農作物を栽培する上でより高度な判断を行ったり、さまざまな農業機械を自動で稼働させたりしようというわけである。パンデミックの発生といった異常な事態は回避できなくても、テクノロジーによって農産物の収穫量を増やすことができれば、食糧危機のリスクを低減できると期待されている。

食糧危機に立ち向かうAI

 AIが農業において活用できる領域は、大きく分けて3つ存在する。1つ目は、農地や農作物の状態把握だ。IoT技術とセンサー類を通じて得られる大量のデータ(農地の気象状態や土壌の状況、農作物自体を撮影した画像など)、あるいは衛星データ(人工衛星から送られてくる各種の画像・センサーデータ)を分析することで、広大な農地の中で問題が発生している箇所を突き止めたり、病害虫などの発生をいち早く把握したりすることが可能になる。

 2つ目は、農作物の発育予測と栽培計画の策定である。農地や農作物、それを取り巻く環境に関するデータが大量に、かつ長い期間にわたって蓄積できていれば、それに基づいて、将来を一定の精度で予測できるようになる。

 そうした予測を参考にしながら、人間が各種の判断(肥料の量や投与するタイミングなど)を下すこともできるが、AIの精度が十分に高いものになれば、最終判断まで機械に任せてしまうことが可能になるわけだ。

 そして3つ目が、農業機械やロボット・ドローン類の自動制御である。すでにさまざまな工場において、産業用ロボットによる高度なオートメーションが実現している。AIによる自動運転や、ドローン配送も実用化のめどが見えつつある。同じ技術を農業に応用すれば、必要な農薬を全自動で散布するドローンや、適切なタイミングで農産物を収穫・選別してくれるロボットなどが実用化できると考えられる。

EYと米Microsoftによる、テクノロジーによる農業イノベーションのイメージ

 これら3つの領域が組み合わされると、どのような農場が実現するだろうか。おそらく、各種センサーや衛星画像から得られる情報をAIが自動的に解析して、最適な栽培計画を自動で策定、それに基づいた農業機械のコントロールまで全自動で行うという形になるはずだ。

 これまでデジタル技術を活用した農業の高度化については、「スマート農業」や「精密農業」といった言葉で語られてきたが、いま実現されようとしているのは「AI農場」であると表現しても過言ではないだろう。

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