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富士山が噴火!? その時、日本は――“災害DXベンチャー”がSFで描く未来 無人航空機が果たす役割とは「SFプロトタイピング」で“未来のイノベーション”を起こせ!(1/3 ページ)

» 2022年06月24日 07時30分 公開
[大橋博之ITmedia]

 こんにちは。SFプロトタイパーの大橋博之です。

 この連載では、僕が取り組んでいる「SFプロトタイピング」について語ります。僕がさまざまな企業と共に実践しているSFプロトタイピングの事例はもちろんのこと、企業の先進的な事例、有識者へのインタビューなども加えてSFプロトタイピングの現状や取り組む方法、効果などをレポートします。

 今回は僕が行ったSFプロトタイピングの事例を紹介します。取り上げるのは、無人航空機を活用した広域災害システムの研究開発を推進するベンチャー企業のテラ・ラボ(愛知県春日井市)です。

自治体の「災害対策DX」に取り組むベンチャー企業、テラ・ラボ

 日本でさまざまな自然災害が多発していることは、多くの人が知るところです。2011年3月11日に発生した東日本大震災をはじめ、地震や大型台風、豪雨など枚挙にいとまがありません。自然災害はいつ、どこで起こるか分からず、日本全国どこも安全とはいえない状態です。

 もはや災害は人ごとではなく、自然災害に対して常に備えておくことが必要です。個人でできることはもちろん、自治体の対応も不可欠といえます。自治体が効果的な対策をする上で重要になるのが、テクノロジーの活用です。

 テラ・ラボは全国の自治体に向けて「災害対策DX(デジタルトランスフォーメーション)」を打ち出し、無人航空機「テラ・ドルフィン」など災害時の情報収集に役立つ多様なテクノロジーの開発に取り組んでいます。

photo テラ・ラボの無人航空機「テラ・ドルフィン」のイメージイラスト

災害時の情報収集、その重要性が伝わらない――取り組みを具体的に見せる方法

 精力的に活動するテラ・ラボですが、「災害時には情報収集が重要だ」と訴えても、それが伝わりにくいという課題がありました。そのため、災害時にテラ・ラボのテクノロジーがどのように稼働し、なぜ人々の役に立つのかを具体的に見せる必要がありました。

 その課題を解決すべく制作したのが、ショートムービー「空飛ぶイルカ」(監督:柴田啓佑)です。

 空飛ぶイルカの制作には、東日本大震災での津波および福島第一原子力発電所事故による影響を受け、復興に取り組んでいる福島県南相馬市が協力しています。ムービー本編では、大規模災害の発生時にテラ・ドルフィンが災害対策本部などと連携してどのような役割を担ったのか、地域社会にどう貢献できるのかを描いています。

テラ・ラボとのSFプロトタイピング「災害監視用無人航空機」

 テラ・ラボと実施したSFプロトタイピングでは、僕がテラ・ラボの代表である松浦孝英氏にヒアリングしてテラ・ラボの未来構想を伺いました。そこからイメージを膨らませて、10年ほど先の近未来を想定したSF小説「災害監視用無人航空機」を作り上げました。

災害監視用無人航空機のあらすじ

舞台はテラ・ラボの拠点がある静岡県富士市。事件もなく平穏な日常がすぎる日々だったが、ある日、事態は一変する。富士山が噴火したのだ。ドローンを飛ばして状況を把握しようとするが、どれも墜落。無人航空機のテラ・ドルフィンでも自然の猛威には歯が立たなかった。誰もがうなだれ絶望していたとき、テラ・ラボの本社から新型のテラ・ドルフィンが到着する――

 作品の著者名は「瀬見kaito」です。僕が小説の基本構想を作り、それをベースにセミプロ作家のkaito氏に物語を執筆してもらいました。そこからさらに僕が加筆してkaito氏が整えるといった工程で作った合作なので、僕のペンネーム「瀬見」とkaito氏の連名になっています。

 今回はテラ・ラボの松浦氏に、完成した災害監視用無人航空機を読んで頂いて感想などを伺いました。

将来の世界観は、ストーリー化して見せないと伝わらない

大橋 災害監視用無人航空機はいかがでしたか?

松浦 とても面白く読みました。情景を思い浮かべられる内容になっていると思います。

 実は過去にもマンガやゲームを作ろうといった話がありました。その場合、きちんとしたストーリーが必要だと思っていました。というのは、例えば2050年くらいを見越したストーリーを描いて見せることで、資金調達や行政機関などさまざまな機関への協力依頼をしやすくなるからです。

 ショートムービーの空飛ぶイルカを制作したのもその意図があってのことです。ただ、空飛ぶイルカは、現代のテラ・ドルフィンがどう役に立てるかを示すにとどまっています。

 テラ・ラボでは今後10年以内に日本全国で5カ所ほどの拠点を作り、5台の無人航空機を配備して日本全体の地図を作ろうと計画しています。そうすれば大規模な災害――例えば南海トラフ地震が発生したとき、災害場所の地図を過去の地図と比較して被災状況を把握できます。また、そのデータをクラウドにアップし、さまざまな機関と連携すれば被害を最小にできます。

photo テラ・ドルフィンの拠点(イメージ)

松浦 さらにテラ・ラボでは将来、成層圏の近くまで飛行できる無人航空機の開発を考えています。高高度で地上を撮影すると、衛星から撮るのと変わらない画像を豊富に撮れます(成層圏まで飛行できる機体を配備したとしても、高高度と低高度の機体を複数運用する必要はあります)。

 また日本だけでなく、アジア全体を飛び続けて情報収集できるシステムの開発まで発展させていくつもりです。さらに内閣府の「ムーンショット計画」に向けてもダイナミックなストーリーを描く必要があると考えています。

 ここまで紹介してきたような世界観は、ストーリー化して見せないとなかなか伝わりません。日本の国策と未来の政策提言とSFが合体したようなストーリーにできると、インパクトがあると考えていました。

大橋 災害監視用無人航空機は、そこまで壮大な未来構想を落とし込んだ作品ではありませんが、テストケースとして作成させていただきました。ヒアリングで全国に5カ所の拠点を作る計画だと伺ったので、小説内では、静岡県富士市に拠点を作ってみました。

松浦 テラ・ラボの飛行機が1機体で500〜1000kmをカバーできるので、全国5カ所の拠点で日本全土を網羅できます。富士山の場合、中部地方からでも首都圏からでも飛んでいくことが可能です。でもあえて富士市に設置したというのは、面白い視点だったと思います。

 ちなみに、無人航空機にこだわるのには訳があります。火山が噴火すると、噴煙が上がります。2022年1月28日の桜島の噴火で3000mほど、2022年1月15日のトンガのフンガ火山では20kmほどまで噴煙が上がりました。すると、より高い高度から情報収集をしなければいけません。噴煙より高い所を飛ぼうとすると有人飛行機では限界があります。どのような限界があるかというと、煙です。エンジンが煙を吸い込むと止まってしまうリスクを考えらます。そのため無人航空機の方が、例え墜落しても被害を抑えられます。

photo 滑走路から飛び立つテラ・ドルフィン(イメージ)
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