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クラウド活用できない企業によくある4つの問題点 “脱オンプレ思考”の必要性(3/3 ページ)

» 2022年07月06日 08時00分 公開
[伊藤利樹ITmedia]
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クラウド障害対応のあるべき姿 AWSのトラブルを踏まえて分析

 とはいえ、中にはクラウドベンダーを信用できず、復旧を任せられない人もいるかもしれない。ただ、これもやや“脱オンプレ思考”ができていない考え方だ。そもそもクラウドベンダーの方が、一般的な企業より障害対応が早い可能性が高い。

 例えば2019年8月23日に発生したAWSの大規模障害では、復旧にかかった時間は約6時間だった。障害が起こったのは午後12時36分ごろ。原因は、東京リージョンで運用している「AZ」(アベイラビリティーゾーン)と呼ばれるデータセンターの一つで、機器を冷却する装置の制御システムに異常があったからだった。

 これにより、仮想サーバやそれに関連するサービスが停止したり、パフォーマンスが落ちたりしたが、午後3時21分ごろから徐々に回復。午後6時半にはほぼ復旧した。

 すでに公共インフラと化しているAWSが6時間も停止すると影響は甚大だ。ただ、一般的な日本企業がこれより早く復旧できるかといえば難しいだろう。

 原因にもよるが、多くの日本企業が取る手順は(1)システムの異常を検知し、お抱えベンダーに連絡して駆け付けてもらう、(2)原因がハードであると特定し、ハードベンダーに連絡、(3)ハードベンダーが駆け付けて原因を特定、(4)場合によっては部品の手配や交換、試験をしてやっと復旧──という流れになるだろう。

 一般的な企業がこれを6時間で済ませるのは簡単ではないはずだ。一方AWSでは、21年9月2日にも大規模障害が発生したが、これも同様に6時間ほどで復旧した。つまり、基本的にクラウドベンダーの復旧能力には問題はないと考えられる。

 従って企業の障害対応も、クラウドベンダーの復旧能力を前提にしたものにすべきだろう。例えば、障害発生時の報告は以下のような形になると理想的だ。

 「IaaSを基盤に使ったシステムは冗長化しています。PaaSを使ったシステムはクラウド側で冗長化できておりどちらも停止していません。社内向けで、重要度が低い、○○システムが停止していますが、SLA(サービス品質保証)の範囲内です。過去の例では数時間で復旧しています。これは周知済みで現状大きな問題はありません」──クラウド活用を進めたいなら、こういった報告が評価される環境作りが必要だろう。

必要なのは有識者の啓蒙 脱オンプレ思考に向けてすべきこと

 ここまで見てきたように、クラウド活用に当たって理解のない上層部が障害になっているケースはある。こうした場合に考えを改めてもらうには、有識者を呼んで啓蒙することが効果的だ。社内の人間から伝えても聞かない場合は、社外有識者にセミナーを開催してもらうと効果がある。

 有識者の啓蒙はオンプレ思考からの脱却だけでなく、クラウドに対して漠然と不安を抱いている人にも有効だ。ただ、有識者を呼ぶにもセミナーなどの旗振り役になる人物が必要になる。万が一、DXを推進する立場の人がオンプレ思考だったり、クラウドに不安を抱えたりしている人の場合は、旗振り役の交代を検討すべきだろう。

 後編では企業がクラウド活用できない理由について、残る(2)ベンダーとの関係、(3)コストに関する勘違い、(4)そもそも組織体制に問題がある──が原因のケースを解説する。

著者紹介:伊藤利樹

NTTデータのエンジニア兼、コンサルタント兼、ビジネスディベロッパ―。セキュアにクラウドを利用するソリューション「A-gate®」を企画・開発し、世の中に展開している。また、クラウド利用体制の構築支援をライフワークのように実施。クラウドの基礎知識から利用時に決めるべきこと、作るべき体制、守るべきルールを伝え、世の中のクラウド利用を推進している。『DXを成功に導くクラウド活用推進ガイド CCoEベストプラクティス』の著者の一人である。

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