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クラウド活用企業が続々と立ち上げる組織「CCoE」とは? 成功例・失敗例から見る機能と役割

» 2022年03月07日 08時00分 公開
[酒井真弓ITmedia]

 「CCoE」(シーシーオーイー)という組織を設置する企業が増えている。CCoEとは「Cloud Center of Excellence」の略で、企業でクラウドを活用していくための仕組みを整え、広めていく部門横断型の専門チームだ。国内では、2014年ごろにNTTドコモや富士ゼロックス(当時)が、18年には大日本印刷やみずほフィナンシャルグループ、20年にはKDDIがCCoEを設置した。

 CCoEに期待されるのはDX(デジタルトランスフォーメーション)の加速だ。DXの目的は、ビジネスモデルの変革し、競争優位性を確立することにある。顧客や社会のニーズをつかみ、アイデアを高速で仮説検証できる環境が必要だが、ここでクラウドが持つ柔軟性や俊敏性、コストメリットが生きてくる。

 しかし、企業がクラウドを活用するには、セキュリティやガバナンス、人材不足など乗り越えるべき壁があるのも事実だ。また、技術だけが新しくなったところで、昔ながらのやり方が残る企業、例えば、稟議書のハンコで上司にお辞儀をしなければならないような企業では、クラウドの俊敏性を享受できないだろう。

 最終決裁が下りる前に、ライバルたちはクラウド上で新たなサービスを提供し始めているかもしれない。競争優位性を獲得するには、組織がこれまで培ってきたビジネスプロセスやカルチャー、働く人のマインドにまでメスを入れることになる。

 既存のIT部門だけでクラウドを推進した場合、ITマネジメントに比重が置かれ、こうした組織の生々しい問題にまで手が回らないことが多い。一方で事業部門が進めれば、リスクや運用は二の次で自由にプランニングしてしまう可能性がある。そこで、既存の組織の枠組みに縛られず、攻めと守りのバランスを維持できるCCoEという新たなチームが求められているのだ。

CCoEの成功例と失敗例

 ここからは、筆者が所属するGoogle Cloud公式ユーザー会 「Jagu'e'r」(ジャガー)内で、CCoEを研究する「CCoE研究分科会」がまとめた書籍『DXを成功に導くクラウド活用推進ガイド CCoEベストプラクティス』(以下、「CCoE本」)を基に、CCoEの具体的な活動を見ていこう。

成功事例の共通点

 成功しているCCoEには多くの共通点がある。特に欠けてはならない3つを紹介する。

  • 強烈なリーダーシップを発揮する中心人物がいる
  • 事業部門とIT部門のコラボレーション
  • ガイドラインではなく仕組みで統制する

強烈なリーダーシップを発揮する中心人物がいる

 成功しているCCoEの一番の共通点は、熱意と巻き込み力を持ったリーダーの存在だ。

 実のところ、CCoEはクラウドの先進性とは懸け離れた泥臭い仕事だ。NTTドコモは、クラウド黎明期の09年から少しずつAWSを使い始めた。12年からは、CCoEリーダーの秋永和計さんを中心に米AWS本社と議論を重ね、本格的な企業利用に不可欠な機能の実装を働きかけてきた。やらされ仕事では何も変えられなかっただろう。

 KDDIのCCoEリーダー大橋衛さんは「会社を変え、文化を変え、日本を変える、そのために技術を磨いてきた」と語る。高い視座とやり抜く意思を持ったリーダーの存在は不可欠だ。

ユーザー部門とIT部門のコラボレーション

 CCoEを設置するならIT部門がいいのか、事業部門がいいのか。CCoEコミュニティーでたびたび議論されるテーマだ。

 富士フイルムビジネスイノベーション(旧社名富士ゼロックス)では、事業部門に当たるサービス開発部門にCCoEを設置した。CCoEリーダーの田中圭さんは、IT部門から事業部門に異動し、両方の立場を経験している。

 田中さんは、事業部門にCCoEを設置するメリットについて「部門内の前提や内情があらかじめ共有できていて相談や検討がスムーズ。組織の壁や文化の違いがないぶん、潜在的な課題も吸い上げやすい」と語る。

 コストへのこだわりも強い。田中さんは、次のサービス開発費用を確保するため、クラウドにかけるコストは少しでも安く抑えたかったと話す。「IT部門を中心にコスト削減を考えた場合、どうしてもインフラに目がいってしまう。しかし、サービスにかかるコストは当然インフラだけではない。OSやミドルウェア、アプリケーションのコード量の削減まで視野に入れ、より大幅なコスト削減を狙っている」

 ビジネスと管理がうまくかみ合うCCoEを目指すなら、顧客のニーズや業務課題に触れている事業部門と、技術的知見を持ったIT部門の協力が不可欠だろう。

ガイドラインではなく仕組みで統制する

 クラウドは、容易にインスタンスを立ち上げられる一方で、事前の検証やセキュリティ対策がないがしろにされがちだ。設定ミスによる情報漏えいも多数みられる。ガイドラインを策定しても、ユーザーがその通り使ってくれるとは限らない。利用可能な機能を制限し、リスクを元から断ち切ろうとするケースも見られるが、あれはダメ、これもダメではクラウド本来の価値を生かせない。

 一連の問題点を受けた対応として、大日本印刷では、ガイドラインに定めたセキュリティや運用管理、一部業務機能を共通サービスとして社内に提供している。これを使えば、あるべき安全性が担保できるというものだ。

 NTTドコモでは、留意すべき設計指針、SLA、セキュリティなどを網羅したノウハウをツール化している。ツールによって締めるところは自動的に締め、運用が足かせになることを防いでいる。特筆すべきは、こうしたツールを外販し「稼ぐCCoE」を実現している点だ。

失敗事例の共通点

 一方で、うまくいかないケースにも共通点がある。

  • リーダーにDXに至るまでの熱意がない
  • クラウドを活用することがゴールになっている(手段の目的化)
  • 事業部門の視点が足りない

 この3つには相関性がある。リーダーにDXへの熱意がない場合、クラウドを導入して活用ルールを作ることが目的になりがちだ。運用側の都合でユーザー視点に欠けた使い勝手の悪いクラウドが出来上がり、CCoEはクラウドを使うための手続きを案内するだけ。「CCoE本」ではこの状態を「誰も遊ばない遊園地の案内係」と表現している。これならわざわざCCoEを組成してやる必要もない。 

CCoEのゴールは、CCoEがなくなること

 多くのCCoEは「自分たちはいずれいなくなるのが理想」と考えている。CCoEがいなくても、ユーザー部門が自立してクラウドを使いこなせることをゴールに掲げ、環境の整備から人材育成まで幅広く活動しているのだ。

 大日本印刷のCCoEリーダー 和田剛さんはこう語る。

 「CCoEだけが頑張っても、結局会社は変わらない。成し遂げるなら仲間が必要。だから、一人でも仲間を増やす活動をしてほしい。どんな活動をすれば仲間が増えるのか、それを考え、実行すれば自然とクラウドは広まっていく。社外には同じようにCCoEの立ち上げに汗を流した仲間がたくさんいる。仲間に悩みを打ち明け、共有することで、さまざまなヒントとパワーが得られるはず」

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