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「ローミング」は通信障害の救世主になり得るか? 実現に立ちはだかる“3つの壁”(2/3 ページ)

» 2022年07月29日 08時00分 公開
[佐野正弘ITmedia]

ローミングの実現を阻む「3つの壁」

 ただ、非常時のローミングは、2011年の東日本大震災が発生した際にも議論の俎上(そじょう)に載せられたものである。その時実現しなかった理由は、当時主流の通信規格が「5G」の2世代前となる「3G」で、NTTドコモとソフトバンクが「W-CDMA」、KDDIが「CDMA2000」という異なる通信方式を採用していたことから技術的にローミングができなかったためだ。

東日本大震災が発生した2011年は3Gが主流であり、KDDIが3Gで他の大手2社とは異なる「CDMA2000」という方式を採用していたことから技術的にローミングは困難だった

 その後4Gになって通信方式が一本化され、他社と3Gの通信方式が違っていたKDDIが、2022年3月末をもって3Gのサービスを終了させたことから、技術的に見れば既にローミングの実現は不可能ではなくなっている。だが、いざ非常時のローミングを実現してい有効活用するには、大きく“3つの壁”が存在することを忘れてはならない。

 1つ目は現状、非常時のローミングを実現するにはルール作りが必要なことだ。相互接続のため設備改修が必要というだけにとどまらず、障害発生から収束までどの程度ローミングを続けるべきか、障害発生時のローミングにはいくら費用を払うのかなど、事業者間でさまざまなルールを決めていく必要がある。

 例えば、通信障害を起こしたKDDIは4000万近い契約を抱えており、ローミングでその通話・通信トラフィックが他の3社に一斉に流れてしまえば、それぞれのネットワークが輻輳(ふくそう)を起こして“共倒れ”してしまう可能性もある。何をどこまでローミングするか、という基準も必要になってくるだろう。そうした細かな部分を議論して調整し、決めていくのには相応の時間がかかることが予想され、技術的に可能だからと言って容易に実現できる訳ではないことは覚えておきたい。

「コアネットワーク」が機能してないとローミングは不可能

 2つ目は、そもそも通信障害をローミングで対応するには限界があることだ。仮に非常時のローミングが実現したとしても、今回のKDDIの通信障害のようなケースでは有効に機能しない可能性が高いと考えられる。

 ローミングでは確かに他社のネットワークを通じて通話や通信ができるようになるが、契約者の情報などを管理しているのはあくまでローミング元のコアネットワークであり、ローミング先の事業者がローミング元の契約者の情報などを直接扱って管理できる訳ではない。

 それゆえ、例えば大規模災害などで多くの基地局が停止してしまい電波を射出できなくなってしまったが、コアネットワークは正常に動作している……という場合はローミングが有効に働くだろう。

 だが、今回のKDDIの通信障害はコアネットワークの中、しかも契約者の情報や位置などを管理する加入者データベースに障害が発生してしまっていることから、仮にローミングが実現できていたとしてもKDDI側が処理をできず、障害の影響は避けられなかったのではないかと考えられる。

今回のKDDIの通信障害は加入者データベースなど、コアネットワークの中枢部分で起きていることから、ローミングが実現していても回避ができなかった可能性が高い

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