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イーロン・マスクのTwitter買収を米右派はなぜ歓迎したのか そしてなぜ、私たちも歓迎できる可能性があるのか(1/3 ページ)

» 2022年08月01日 07時15分 公開
[小林啓倫ITmedia]

 2022年7月8日、米TeslaのCEOで、大富豪としても知られるイーロン・マスク氏が、4月14日に発表していた自らのTwitter買収計画を白紙に戻すことを表明した

 この発表の直後、Twitterの株価は時間外取引において6%下落。同社はマスク氏と困難な交渉を経て買収合意に至っていた経緯もあり、彼に対して訴訟を起こすことを発表、今年10月17日に裁判が始まることとなっている。

photo マスク氏が7月11日に投稿した画像

 マスク氏が急きょ買収を撤回した背景については、さまざまな憶測が飛び交っている。報道によれば、マスク氏は公式な理由として、Twitter上の偽アカウントやスパムボットの割合について、同社が正確な情報を提供してこなかったためと説明している。

 一方で「買収資金として計画していたTesla株の株式が下落し、資金不足に陥ったためではないか」や「そもそも自身が保有するTesla株を大量売却する理由が欲しかっただけではないか」といった指摘もあり、さらには「単にTwitterに嫌がらせをしたかったのでは」などという主張まで飛び出している。

 この最後の説は、あながち陰謀論であるとも言い切れない。実際に前述の通り、買収撤回によってTwitterの株価は下落している。またマスク氏との買収交渉の中で、Twitterの経営幹部の何人かが同社を離れることを余儀なくされており、もともと赤字体質だったTwitterの経営にはさらなる暗雲が立ち込めている。そしてもう1つ、マスク氏のような保守派の論客にとって、Twitterが目障りな存在であったという点にも注目が必要だろう。

米右派から敵視されていたTwitter

 2019年10月、米国社会に関してさまざまな調査結果を発表していることで知られるPew Research Centerが、米国人Twitterユーザーに関する興味深いレポートを発表している

 それによると、米国内の政治に関して言及したツイート(米国成人が投稿した全ツイートの13%を占めていたとの結果)のうち、72%が「トランプ大統領をまったく支持しない」人々、25%が「トランプ大統領を強く支持する」人々によって投稿されていた。つまり政治に関するツイートの多くが、リベラルな立場に立つ人々からのものだったわけである。また同センターによる別の調査では、「Twitterユーザーは米国の成人全体と比較して、若く、民主党を支持し、高学歴で高収入である傾向が強い」という結果が出ている。

 反トランプで米民主党を支持しているからといって、こうしたユーザーが常にリベラルなツイートをするとは限らないが、米保守派にとっては、Twitterが彼らの政治的傾向とは異なる意見を発信するプラットフォームとして感じられていただろう。

 そこに持ち上がったのが、マスク氏によるTwitter買収計画である。マスク氏はオンライン決済サービスPayPalの創業に関わり、その後宇宙開発企業のSpace Xや、EVメーカーのTeslaを起業するなど、テクノロジー業界で成功を収めてきた。そのため彼がリベラルな考えを持つ人物ではないかと期待する人もいるが、実際にはTwitter上でリベラル派を攻撃したり、揶揄したりする発言を繰り返してきた。それだけに彼の買収発表は、保守派から大きく歓迎され、例えば下院共和党議員の保守派グループ「フリーダム・コーカス」のメンバーであるジム・ジョーダン氏は、買収が発表された4月14日に「イーロン・マスク。表現の自由」というツイートを投稿している

 実際にマスク氏は、買収発表後の5月1日、永久停止処分を受けていたトランプ前大統領のアカウント(2021年1月6日の合衆国議会議事堂襲撃事件を受け、Twitterは「事件直前のトランプ大統領の言動は、支持者を扇動するものだった」という判断を示し、1月9日に彼のアカウント@realDonaldTrumpを停止していた)を復活させる考えを表明するなど、さまざまなTwitter「改革」の動きを見せていた。結果的に(現時点では)マスク氏のTwitter買収は白紙になったわけだが、彼の行動はリベラル寄りで大きな発信力を持つTwitterに対抗するものとして期待されていたのである。

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