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イーロン・マスクのTwitter買収を米右派はなぜ歓迎したのか そしてなぜ、私たちも歓迎できる可能性があるのか(2/3 ページ)

» 2022年08月01日 07時15分 公開
[小林啓倫ITmedia]

Twitterの代替にはなっていない保守派ソーシャルメディア

 さて、もし米国のTwitter界隈がリベラル色の強い場所であるならば、別のソーシャルメディアに移ったり、立ち上げてしまったりすれば良いのではないかという意見もあるだろう。実際に米保守派からは、さまざまな保守系サービスに乗り換えたり、独自のSNSを開設したりする動きが見られる。

 例えばアカウント停止処分をめぐる議論の当事者であるトランプ前大統領は、2021年10月にTruth Socialという独自のソーシャルメディアを立ち上げることを発表し、2022年2月21日にサービスを開始している。App Storeの同日付の無料アプリランキングでは、同サービスのアプリが首位に立っている。

 Truth SocialはまさにTwitterを彷彿とさせるミニブログサービスで、メッセージを投稿したり、他人をフォローしたりしてコミュニケーションすることができる。リツイートや「いいね」に似た機能もあるが、他のSNSと比べて優れた特徴があるわけではない。ただし「(Twitterのように)検閲をしない」ことを表明しており、文字通り「Truth(真実)」を広めるためのプラットフォームだとしている。

photo Truth SocialのUI(App Storeより)

 他にもさまざまなSNSが登場している。Gettrはトランプ前大統領の広報担当者を務めた経験を持つ、コミュニケーション・ストラテジストのジェイソン・ミラー氏が2021年7月に立ち上げたミニブログサービスで、「言論の自由、独立した思想、政治的検閲とキャンセルカルチャーの否定を重視するソーシャルメディア」を標榜している。

 Gabは合衆国議会議事堂襲撃事件より前、2017年からサービスを開始しているソーシャルメディアだが、主な利用層は保守派の男性であるとされている。そのため以前から白人至上主義者や反ユダヤ主義者など、主流派ソーシャルメディアから否定される人々の逃げ場として利用されており、そこから発信されるメッセージがさまざまなコミュニティとの争いを引き起こしている。

 Rumbleは2013年に立ち上げられた映像投稿サイトで、現在では保守派版YouTubeとも呼べる存在になっている。実際に2020年8月には、当時米下院の共和党議員だったデヴィン・ヌネス氏(現在は辞職してトランプメディア&テクノロジーグループのCEOを務めている)は、YouTubeが自分のチャンネルに対して過度に検閲的であると非難して、Rumbleへの移行を表明した。この動きに他の著名な保守派論客も追随しており、トランプ前大統領も2021年6月からRumbleの利用を開始している。

 ただしこうした「保守派限定SNS」とも呼ぶべきサービスは、いまのところ大きな成功を収めていない。

 ワシントンポスト紙の報道によれば、同紙がGab、Gettr、Rumble、そしてロシア人技術者が開発し、ロシア系勢力が主張を発信している場として知られるTelegramの各種ソーシャルメディアに移行した、47人の著名な右派インフルエンサーを対象に分析を行ったところ、トランプ前大統領が主流ソーシャルメディア上でアカウントを停止された直後、彼らのフォロワー数は確かに急増していた。しかしその後1年間、フォロワー数はほんとんど増加しておらず、減少している場合すら見られることが判明したのである。

 ワシントンポスト紙はこうした低迷の理由として、保守派からの政治的発言「しか」見ることのできないSNSは、他愛もない冗談や可愛い動物の画像を期待する一般のソーシャルメディア・ユーザーにとって魅力的な場所になっていない、と指摘している。前述のPew Research Centerの調査結果を見ても、政治的なツイートは全体の1割程度であり、残る9割は非政治的な内容であることが分かる。ソーシャルメディアがプラットフォームとして成長を続けるためには、政治思想の面で急進的ではない人々も惹きつけなくてはならないわけだ。そしてそれは、一朝一夕に達成することは難しい。

 だからこそマスクによるTwitter買収計画は、Twitterそのものの運営体制を、保守的な方向へと変えるものとして期待されたのだろう。しかしそれが白紙となったいま、改めて保守派限定SNSをどう盛り上げるかという議論が盛んになり、改めてTwitter等の主流ソーシャルメディアからの乗り換えが呼びかけられるかもしれない。

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