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DMMの「Mastercard取引停止」で考える“カード決済の裏” クレカの扱いがなくなる複数の理由(2/3 ページ)

» 2022年08月03日 14時30分 公開

国際ブランドが何らかの理由で取引停止を持ちかけるケース

 決済代行業者を介して一括契約を結ぶ中小小売店などに対し、大手のオンラインコマース事業者やチェーン店などは、クレジットカードの国際ブランドと直接交渉し、より良い手数料率を引き出すケースが多い。

 取引量にもよるが、大手の方が全体に安い料率であることが多く、前述の引き上げ交渉でもめやすいのもこの点にある。セキュリティリスクの差から、リアル店舗よりもオンライン取引の方が手数料が高めになる傾向があり、近年増加しているリアル店舗のオンライン通販やアプリ決済の料率交渉でもめる原因にもなっている。

 また、これとは別の軸として、特定ブランドが事業者に対して一方的に取引停止を持ちかけるケースも少なからず存在する。想定されるケースとしては次の3種類がある。

 1つ目は経済的リスクからの停止で、倒産リスクなどを鑑みて判断されるもの。2つ目は社会規範を主な理由としたもので、このほか政治的あるいは社会的リスクから取引を停止するケースとなる。ロシアで国際ブランドのカード取引が停止されたのはこれに含まれるだろう。この2つは割と存在するケースだと考えられるが、おそらく最も問題となるのは3つ目のケースだ。

  1. 危険な取引や財務状況から利用停止されるケース
  2. 反社会活動や政治的リスクから停止されるケース
  3. ブランドの規定するポリシーなどへの相反から停止されるケース

 3つめのケースについて、日本国内ではアダルトや風俗関連でのカード決済規制がよく問題となっているが、実際のところは「停止の理由が不可解」であることも少なくない。

 例えば明確に風俗産業であっても、特定の決済代行業者を通じてカード決済が利用できるケースは少なからずあり、「アダルトだから一律禁止」というわけでもない。一方で、近年R-18相当のコンテンツを取り扱うオンライン事業者をターゲットにカード決済が停止されるケースが散見され、「目立つところから狙われている」という印象も強い。

 「アダルト」や「R-18」の概念がそもそも自主規制に近いことにも起因するが、明確な判断基準がなく主観によるゾーニングが行われていることが問題をより複雑にしている。つまり、判断する人間のさじ加減しだいでいくらでもボーダーが変更できてしまうというわけだ。もし、この判断を国際ブランドが行った場合、どういった基準でゾーニングを行うのだろうか。

 筆者が取材する過程で、ある国際ブランドが日本の出版各社にカード取り扱い停止を巡って圧力をかけていることが判明している。担当リージョンの本社からは規制対象となるキーワードリストが送付され、キーワードが含まれる作品すべてを取り除くよう一方的な勧告となっている。キーワードの内容は非常に多岐にわたり、明らかに日本人が関与した形跡が見受けられたが、こうした重要な決定がすべての交渉フローをすっ飛ばしてブランドの特定担当者から加盟店に直接通達される時点で、単純なゾーニングの判断を越え、すでに表現規制の領域に踏み込んでいるのではないかと筆者は考える。

 先日はSkebが「Skeb Coin」というトークンを発行したことで話題となったが、オンライン決済の国際カードブランドへの依存が高まることはこうした表現規制に踏み出す結果にもなり、回避策としての役割を果たすようになる。カード決済は便利だが、同時に特定ブランドへの依存は利用者にとってもリスクとなる可能性がある。「便利なインフラは業界同士の切磋琢磨の上で成り立っている」ことを念頭に置きつつ「つねに代替手段は考えておく」ことも重要だろう。

Skeb Coinの開発背景にも海外プラットフォーマーによる表現規制の回避がある

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