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「ブルーレイに補償金」の筋が悪い理由 “中の人”が解説(2/3 ページ)

» 2022年08月29日 12時30分 公開
[小寺信良ITmedia]

2.他省庁との合意形成もできていない模様

 実はブルーレイレコーダーを補償金対象として政令指定しようとしたのは、これが初めてではない。2008年の北京オリンピック商戦へ向けて、テレビ放送をコピーワンスからダビング10へ緩和するバーターとして、アナログ放送が受信できるブルーレイレコーダーとディスクに補償金をかけるということで、文化庁と経産省の間で合意したことがある。

 このとき権利者団体は、文化庁の委員会で利害関係者と合意形成できていないのに省庁間で勝手に合意するとは何事かと猛反発した。このとき、通常の政令指定手続きとしては、文化庁の委員会で関係者が合意形成したのち、省庁間で合意文書が交わされ、それから政令指定となるという段取りであることがわかった。

 こうした合意文書は一般には公開されることはないが、東芝裁判の際に裁判資料として提出されたものがある。

東芝補償金裁判の際に証拠資料として提出された合意文書

 DRMと補償金の関係については、2019年度までに文化庁の小委員会で結論が出せなかったため、それ以降は省庁間で調整するという事になっていた。従って2019年度以降の議論は、水面下で行なわれており、表からは観測できない。

 しかしこれまで、こうした省庁間合意については経産省経由でJEITAへ報告され、JEITAはそれを受けてコメントを出すというのが通例である。だが今回はそうした報告もコメントはなく、いきなりパブコメ開始に対して明確に反対する見解を掲載している。つまり今回は経産省との合意に至っておらず、文化庁の独断で決めた、という事だろう。

3.やめるやめると言いながらやめない

 筆者が委員として出席した「著作物等の適切な保護と利用・流通に関する小委員会」の前身として、平成18年からスタートした「私的録音録画小委員会」がある。今から16年前である。

 この委員会のスタート時には、録音録画補償金制度の廃止も含めて検討という事になっていた。ところがいつのまにか「廃止」の検討は忘れ去られ、ひたすら拡大路線の議論が続いてきた。そして2012年の「東芝補償金裁判」を以て、録画補償金が自然消滅するに至り、私的録画補償金協会(SARVH)も2015年に解散している。それが今なぜ、という話なのである。

 2021年10月に、文化庁から補償金制度関連団体へ向けて、以下のような文書が出されている。

文化庁著作権課発行の「私的録音録画補償金制度の今後のあり方について」

 これによれば、ブルーレイレコーダーの機器指定が「過渡的な措置」であり、廃止する方向で議論をとりまとめたいとしている。制度廃止・新設等法改正を要する事項については、令和4年度に必要な手続を進める方向であるという。すなわち本年度中に廃止・それに代わる新制度を導入するという。

 この話がまだ生きているとするならば、本年度中にブルーレイを機器指定して今年度中に補償金制度を廃止することになる。法改正には当然国会の決議が必要だが、パブコメ終了が9月21日で、2023年1月の常会まで3カ月もない。そして常会ではブルーレイの政令指定と、補償金制度の廃止と、新制度設立を同時にやることになる。従って、上記文書の内容はすでに現実不可能になっており、廃止というのもまた「なかった話」とするしかない。

 新制度については、主婦連とインターネットユーザー協会共同で提案したことがあるが、審議期間中に他の議論が長引いたため、時間切れとなって深い議論にまで至っていない。文化庁に何か草案があるのかもしれないが、現時点では示されておらず、委員会でも揉まれていない。廃止するという確約も、次の策もないのに、取りあえずこれは認めろというのは、あまりにも無理がある。

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