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好きな被写体のみを撮影できるカメラ 他の物体は瞬時に削除し記録せず 撮影後のデジタル処理は不要Innovative Tech

» 2022年09月07日 08時00分 公開
[山下裕毅ITmedia]

Innovative Tech:

このコーナーでは、テクノロジーの最新研究を紹介するWebメディア「Seamless」を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。

 米UCLA(University of California, Los Angeles)の研究チームが開発した「To image, or not to image: class-specific diffractive cameras with all-optical erasure of undesired objects」は、好きな対象物だけを撮影し、その他は削除できるカメラシステムだ。いったん撮影し除去しているのではなく、光学的に瞬時に削除し記録しないようにしている。

手書きの「2」だけを撮像できるようにした3層回折カメラのプロトタイプ。他の数字は写らない

 スマートフォンや監視カメラ、自動運転車、顔認識など至る所にカメラが存在するデジタル時代において、プライバシー保護はますます重要な課題となっている。既存の手法の中には、画像のぼかしや暗号化など、取得した画像から機密情報を隠すアルゴリズムを適用している。

 しかし、このような方法では、機密情報を隠したり暗号化したりするためのデジタル処理を行う前に、RAW画像がすでに撮影されているため、機密データが露出してしまうリスクがある。

 研究ではデジタル処理を必要とせず、特定の種類の対象物のみを撮影し、その他の種類の対象物を画像から瞬時に消去するカメラシステムを提案する。

 このカメラは、回折層からなる連続的な透過面で構成。これら透過面の構造では、カメラが特定のクラスの物体のみを撮影し、それ以外を消去するように透過光の位相を変調させる。そのため深層学習を用いて最適化する。

 学習後、得られた層を3Dで造形し組み立てカメラを形成する。組み立て後、目的のクラスの物体が目の前に現れると、カメラの出力に高画質な画像を形成する。一方、同じカメラの前にある物体が他の望ましくないクラスに属する場合、それらを光学的に消去し、光の強度が低い背景ノイズに似た非情報的なパターンを形成する。

 このカメラは、望ましくないクラスの物体の特性情報を、光の回折によって出力時に全て光学的に消去するため、それらの直接の画像を記録することはない。そのため、外部の攻撃に強くプライバシーの保護が最大化される。また不要な画像を記録しないため、カメラの画像保存・転送の負荷を軽減できる。

 このカメラを評価するため、手書きの「2」だけを撮像できるよう設計したプロトタイプを作製した。その結果、対象物が手書き「2」である場合にのみ選択的に撮像し、その他の手書き数字だと画像から瞬時に消去して背景ノイズに似た特徴を得ることができた。また異なる照明下でも動作するかをテストしたところ、照明の変化に対してロバストであると示された。

3層回折カメラと5層回折カメラで撮影した際の比較図。3層回折カメラの方が5層回折カメラよりも「2」以外の文字の残骸が残っている

Source and Image Credits: Bai, B., Luo, Y., Gan, T. et al. To image, or not to image: class-specific diffractive cameras with all-optical erasure of undesired objects. eLight 2, 14 (2022). https://doi.org/10.1186/s43593-022-00021-3



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