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ITインフラの障害時、「今どうなってるんだおじさん」にならないために 必要な心構えを考える(2/2 ページ)

» 2022年09月13日 10時00分 公開
[伊藤利樹ITmedia]
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必要なのは事前の冗長化 「今どうなってるんだ」以外にできること

 ではITインフラで障害が発生したとき、auショップに突撃するような「今どうなってるんだおじさん」にならないためには、どんな対応が必要か。必要なのは、ユーザーの側でもインフラをあらかじめ冗長化しておくことだ。大体のケースに対応できる。

 例えばTeamsの場合、チャットのやりとりはメールで代替。重要なチャットを残しておきたいのならば、履歴を保存する仕組みを作る。絶対に実施すべき会議は、Teamsで障害が起きたら「Zoom」や「Cisco WebEx」を利用するよう、あらかじめ取り決めておくことなどが考えられる。

 「今どうなっているんだ!」と情シスに文句を付けるよりも、Teamsで障害が起きていたが、代替案としてWebExなどを事前に用意していたので会議は滞りなく実施できました、という方がスマートだ。

 携帯回線で置き換えると「デュアルSIM」やスマホ2台持ちが冗長化に当たるだろう。auショップに突撃するほど携帯回線が欠かせないインフラならば、維持に相応の努力をしても良いはずだ。

 もちろん冗長化するとコストは余分に掛かってしまう。格安SIMの基本料金はおおむね1000円未満とはいえ、毎月の出費が増えるのは喜ばしい話ではない。冗長化していても運悪く両方のインフラが同時に潰れることもあるので、100%安心とはいえない。

 筆者も、冗長化しているにもかかわらず痛い目にあったことがある。クラウドの話ではないが、RAID(データを複数のHDDに分散して保存する仕組み)を組んでいたのに、HDDが同時に破損して数十TBのデータベースが壊れてしまった経験がある。10年近く前の話だ。

 結局データベースはバックアップから復旧ができた。しかしデータ量もさることながら、新たに発生するデータのロード処理や加工処理、日次で作成する他システムへの配信データなどもあり、連日徹夜で復旧作業に臨んだが、完全な復旧まで一週間を要した。

photo 可用性とコストをてんびんに掛けるイメージ

 もしかすると、冗長化をさらに多重にしておけば回避できたかもしれない。しかし大規模DB用の高性能ディスクを増やすとコストもそれなりに掛かる。つまり、求める可用性とコストの折り合いで、冗長化のレベルを決める必要があるのだ。

 携帯回線に置き換えれば、回線契約をしたスマホを何台持つか(もしくはデュアルSIMをするか)などを、コストとの折り合いで判断する必要がある。例えば、冗長化のためにスマホを3台持つのは妥当かどうか──といった判断がこれに当たるはずだ。

とはいえ残る「単一障害点」の落とし穴 冗長化を考える上での注意点

 ただ、いくら冗長化しても「単一障害点」(その箇所が働かないと、システム全体が障害を起こすようなポイント)が残ってしまうことはある。

 例えばauの障害では、SMS認証が単一障害点になった例がみられた。Wi-Fiによりデータ通信は利用できたが、SMSの認証コードが受け取れずオンラインサービスが利用できないといった形だ。確かに複数の電話番号を登録できるSMS認証はあまりない。

 クラウドの世界でも単一障害点は残り得る。例えばIaaSの場合、サーバ障害の発生時はロードバランサー(負荷分散を行う機能)が検出して、接続サーバを切り替えることで対応する。しかし、ロードバランサーが障害と認識できない程度の性能劣化による障害が発生する可能性はあるので、ここが単一障害点になる。

 対策には、使っているインフラの単一障害点を正しく把握し、その対応を事前に整理しておく必要がある。

 例えばスマホの場合、SMS認証の外し方や変え方を事前に確認しておくべきだろう。中には簡単にSMS認証を外せないサービスもあるかもしれない。その情報も確認しておき、利用サービスの重要性に応じて対応を考えておく必要がある。

 ロードバランサーの例は、性能劣化を検出する仕組みと、それを検出すると強制的に切り替わる仕掛けを構築しておくべきだろう。もしくは手動で切り替える手順が必要になる。


 つまり冗長化はすればするほど良いわけではなく、可用性とコストにはいい案配があるわけだ。そして冗長化を超えた障害が起きたら仕方なかったと諦め、復旧を待つ。この考え方ならば、少なくとも「今どうなってるんだおじさん」となりauショップに突撃はしないだろう。

 携帯回線・クラウドを問わず、欠かせないサービスの利用を維持するには、相応のお金と努力が必要だ。携帯電話1台という選択肢は手間もかからず比較的安いが、一方でau障害のようなトラブルが起きたときには対応しにくい。もし絶対に使い続けたいのであれば、それだけのコストや手間暇を覚悟すべきだ。

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