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「ネット」という閉じた楽園で、人は“ウソ”をのむ小寺信良のIT大作戦(2/3 ページ)

» 2022年09月28日 11時00分 公開
[小寺信良ITmedia]

「検索」は「正しい」を担保するか

 話をTikTokに戻す。米国での報告で注目されているのは、TikTokの検索機能自体に問題がある、という指摘だ。検索して結果を戻すのは人間ではなく、サーチエンジンである。そのエンジン自体もバイアスがかかっている、というわけである。

 ただそうは言っても、検索エンジンの検索結果についてはもう長らく研究されている通り、見つかりやすいような対策もされるわけだし、検索履歴による学習機能もあるわけだから、誰がいつ検索しても同じ結果になるわけではない。

 TikTokの検索では、ウクライナの「ブチャ」を調べると、最初の候補に「ブチャ フェイク」が上がってくるということで、中立性に問題があるという。意図的・政治的に世論を誘導するためのフェイク動画が拡散するのは、すでに社会的な問題になっている。それがさらにTikTokの特性として、興味本位のユーザーがおもしろおかしいものを探しに来る場所なわけだから、そりゃ事実もフェイクも関係なく刺激的なものが上位に上がってくるだろうよ、とは思う。

「bucha fake」でTikTokを検索すると、ウクライナのブチャで起こった民間人虐殺に関する虚偽の動画が出てくるという(NewsGuardのレポートより引用
「bucha fake」でGoogle検索するとフェイク動画の注意喚起に関するリンクが上位に表示される(NewsGuardのレポートより引用

 インターネットの普及から20年余。検索して情報を探すという行為も、意味合いが変わってきている。インターネット黎明期、1990年代中頃から2000年代半ばぐらいまでは、企業の公式サイトや大学、個人のWebサイトなど、わざわざ情報を知らしめたい人が、知らしめたい情報をネットへ出していた。「ググる」がちゃんと機能していた時代である。

 2006年にTwitterが、2010年にInstargamがサービスインし、SNSの時代が安定期に入ると、Webを「ググらない」人達が出てきた。知りたいことは、SNS内を検索するほうが効率的、というわけだ。確かに「バエる」情報が知りたければ、「バエる」の専門であるInstagramを探した方が、SN比としては向上する。

 好きで発信している情報を、勝手に探して役立てる。「見せたいものが見つかるだけ」から、「見せたいものから勝手に意味を掘る」へ変化すれば、情報の正誤は保証されない。ナマの事実より、きれいな虚構のほうが、しあわせとの距離が近い。

 各プラットフォームには、プラットフォームなりのバイアスがかかる。Instagramは、Inatagramをやっていそうな人からしか情報が得られない。バエの大半は虚像だ。よく見せようとする情報には、ウソを語る必要はないにしても、欠点を黙っておく、ということはあり得る。いうなれば全ユーザーによる「広告ごっこ」である。

 それでも実際その通りに試してみてうまく行けば、その情報は正解となる。試せるものはそれでいいとしても、試せないものや結果が曖昧なものは、信じるか信じないかの話でしかない。誰も情報の正誤を確認しないまま、場当たり的に時間が流れていく。

 欲しい情報が見つかるはずだったWebサイトを今ググると、既存の情報を焼き直しただけのいわゆる「いかがでしたかサイト」ばかりが上位に上がってきてしまい、解決につながらない。そのものズバリは公式サポートサイトでタイトルだけは見つかるが、「私も知りたいです」で終わっている。何か壮大な化かし合いが始まったのかと錯覚する。

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