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暗号資産の“電力問題”を解決? イーサリアム最大のアップデート「The Merge」を徹底解説(2/4 ページ)

» 2022年09月30日 12時00分 公開
[森下真敬ITmedia]

スケーラビリティ問題をどう解決する?

 ブロックチェーン業界のエンジニアたちは、スケーラビリティ問題を解決するためにいくつかのアプローチを模索してきた。

 例えば、ブロック生成を担うノードを少数に限定する手法や、ブロックの生成や検証に求められるリソース(時間や計算能力など)を低く設定する手法がある。ただし、前者では分散性を、後者では安全性を犠牲にすることから「ブロックチェーンのトリレンマ」、すなわち「どれか1つを諦めなければならない」という考え方が一般化していった。

 ところが、ビットコインに続く世界2位の時価総額を有し、NFTやDeFiといったブロックチェーンのユースケースの大部分が集うイーサリアムの技術者たちは、このトリレンマを正面から克服しようと考えた。

 そのためのアプローチが、ネットワークを細かく分割(シャーディング)し処理を並列化するレイヤーを新たに設け、従来の分散的で安全なレイヤーにその結果を集約し記録していこうというものだ。

 しかし、ブロックチェーンのネットワークを細分化し並列処理を行うためには、旧来のイーサリアムには見直しておくべき課題があった。それがビットコインと同様にマシンの処理能力を用いた計算競争(PoW:Proof of Work)によってネットワークが維持されているという点だ。

 The Mergeはこれを見直し、「Proof of Stake」(PoS)という新しい合意形成の仕組みへシフトするためのプロジェクトである。

利益を求める計算競争から利害関係に基づく協調へ

 Proof of Stakeとは、その名の通り「Stake=利害関係」による合意形成だ。

 計算問題を解く速さで台帳への記録者がランダムに決定するPoWに対し、PoSとはトランザクションを記録および検証する人(=バリデータ)がランダムに選出されるシステムだ。PoSではバリデータになるために、ブロックチェーン上に一定額の暗号資産を預ける必要がある。

 なぜネットワークの並列化に向けて、PoWからPoSへとシフトする必要があったのか?その理由は大きく分けて2つある。

 その1つがネットワーク参加のための要求水準が高いという点だ。ネットワークの安全性と分散性を高水準に保ったままシャーディングを行うには、従来の計算競争よりも多様な参加者が容易にバリデータになれるようにしなくてはならない。

 また、この要求水準の高さは環境負荷にも直結している。昨今の社会情勢を鑑みて、これを改善することが中長期的なネットワークの持続可能性を高めることに繋がっている。

 2つ目はデータのファイナリティの問題だ。PoWの場合はネットワーク内のデータはいつまで経っても正式に確定することはない。あくまで計算結果の難易度から「確率的に覆すことができない」とみなしているだけだからだ。このようなシステム全体の不確実性を下げることで、細分化されたネットワーク上で複数の処理を並列実行しやすくなる。

 マイナー間の計算競争から、利害関係を共有するバリデータによる協調(と相互監視)へシフトすることで、ネットワークの参加ハードルと不確実性を下げることがこのプロジェクトの目的となっている。

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