究極的にはThe Mergeで起きた出来事はこれから起こるイーサリアムのスケーラビリティ向上に向けた下準備でしかない。
しかし、この下準備の結果として環境への負荷は大幅に削減され、マイニングに関する事業環境も変化した。そして2022年後半から2023年にかけて実行されるシャーディングによって、イーサリアムの処理性能は飛躍的に向上するとの期待が寄せられている。
一方で、規制当局の動向には一層の注意が必要となっている。
これまでPoWマイニングという単純作業によって採掘されたビットコインは本物の金に見立てられ「デジタル・ゴールド」と称されてきた。イーサリアムも同様の理由から米国規制当局にコモディティと明確に定義された2つの暗号資産のうちの1つだった。
これに対し、PoSではバリデータがネットワークに資金をプールし、そこからネットワーク維持の報酬を受け取る仕組み(ステーキング)が採用されており、ゴールドではなく投資契約・証券のような性格を持っている。
日本と同様に諸外国に置いても証券性のある商品の取扱には、開示規制や事業者規制などが暗号資産よりも厳しい規制が課せられることが多い。
The Merge成功の翌日には米SEC(証券取引委員会)のゲーリー・ゲンスラー委員長が、ステーキングされた暗号資産は連邦証券規制の対象となる可能性があると述べ、イーサリアム(ETH)がまさにそうした手法に移行したことを受けて、監視強化の姿勢を繰り返している。
タイ王国でもSEC(証券取引委員会)が、同国において提供されている暗号資産(仮想通貨)関連企業のステーキングおよびレンディングのサービスについて禁止する方針について公聴会を開催することを発表した。
なお、イーサリアムコミュニティの尽力の結果として総論としてPoSへ移行することが歓迎された今回のThe Mergeだが、PoWのシンプルな性質やこれまでの実績を支持する人々や事業継続が危ぶまれるマイニング企業らによる反発があったことにも留意しておきたい。
PoWよりもコミュニティや利害関係者間の信用に依拠するPoSの仕組みが選択された以上、既存の経済圏や金融規制との折り合いを今までよりも慎重に探る必要がある。
こうした背景を踏まえて私たちはどうブロックチェーンと向き合うべきだろうか。
少なくとも、Web3への懐疑的な意見の立脚点となっているスケーラビリティ問題の解決に向けて、業界全体が大きく前進したことは間違いないだろう。また、持続可能性という社会課題にイーサリアムコミュニティが正面から向き合い、エンジニアリングの力でこれを解決したことも評価に値する。
さらに、これだけ世界的に利用されている分散システムがシームレスかつゼロダウンタイムでマイグレーションできたことは、IT技術史を見ても稀有な事例と言える。
特筆すべきは足掛け6年に及ぶPoS移行に向けた議論の中で、強権的なガバナンスを発動させることなく、コミュニティが望む方向性と技術的解法を建設的に模索し、空中分解させずに完遂したという点にある。少なくともブロックチェーンの可能性を感じさせる出来事だったのではないか。
ブロックチェーン業界は多くのエンジニアや法人、コミュニティの力で少しずつ社会との折り合いを探ってきた。今後も規制との調整を図りながらあるべき姿を模索していくだろう。
こうした努力の延長線上にWeb3というITビジネスの新境地があると考えたとき、そこにエンジニアリングの魅力や面白さを感じることはできないだろうか。
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