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データ分析初心者は“童心に帰る”べき── 現役データサイエンティストが説く、失敗しないための心構え(1/2 ページ)

» 2022年10月07日 08時00分 公開
[松浦立樹ITmedia]

 コロナ禍の事業継続の姿勢から一転し、新規事業へ投資する企業が増えている。その中でも関心を集めているのがデータ活用だ。これまでの業務を通して蓄積してきたデータを分析し、業務効率や生産性の向上を狙う企業は多い。一方、ノウハウや人材不足により、思うような成果を出せない企業も存在する。

データミックスの代表取締役である堅田洋資さん

 データ分析初心者が陥りがちな失敗の原因とはなにか。データサイエンス人材の育成スクールを運営するデータミックス(東京都千代田区)の代表取締役である堅田洋資さんは「“データを見れば、データが何か答えを教えてくれる”と誤解する人が多い」と指摘する。

 続けて「データ分析を志す人は細かなテクニックを書籍などで学ぶ前に、童心を思い出すべき」と話す。自身も現役のデータサイエンティストでもある堅田さんに、データ分析初心者が持つべき心構えを聞いた。

特集:イチから分かるデータ活用 「ウチも挑戦」の前に押さえるキホンのキ

コロナ禍での守りの姿勢を脱し、データ活用に投資する企業が増えている。一方、ノウハウや人材の不足により、スタートダッシュに失敗する企業もみられる。本特集では、これからデータ活用を始めるに当たって必要な知見を、成功事例や専門家への取材から探る。

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データとは“無口な友達”

 堅田さんいわく、データミックスが運営するスクールの受講生の中でも、データや分析結果を見るだけで答えを教えてくれると期待する人は多いという。「この解釈が大きな間違いで、分析結果はあくまでただの事実。ここから人間が答えを読み取らなくてはいけない」

 例えるなら、データとは“無口な友達”だという。さまざまな答えを知っているし、新しいことも教えてくれる。しかし、決してデータの方から話しかけることはなく、人間側から話しかけなければいけない。だからこそデータ分析を志す人には、自分が解決したい課題を言語化する能力が求められる。

 「世間では分析のテクニックだけにフォーカスしがち。確かにそれも重要だが、テクニックが必要になるのはデータに話しかけるフェーズに入ってから。だからまずは言語化能力を持つべき。データ分析に失敗する人はここが弱い人が多い」と堅田さん。

「データと対話することが重要」と堅田さんは話す

 では言語化能力を鍛えるためにはどうしたらいいか。堅田さんは、子どもの頃を思い出して童心に帰るべきと指摘する。「無邪気な心で『あれは何?』と両親に聞いていたように自分のビジネス上で何が起きているかを知ろうとし、それを言葉に変える。自分が知りたいことを言語化し、表に出すことがデータ分析の第一歩になる」

その意思決定は本当に“データドリブン”か?

 データ分析で定める目標として、データドリブンな意思決定を目指す例が挙げられる。ただ、この“データドリブンであること”にもわなが潜んでいるという。例えば、ある企業が人件費を下げたいと考えているとする。人件費を下げるために何をするべきか、データを分析していく中で、社員を減らせば人件費が下がると判明したため、社員を減らすことにした。

 この例も、データドリブンな意思決定をしたといえるが、その結果としてどのような現象が発生するだろうか。社員が減ったため1人当たりの仕事量が増える。結果として生産性が下がることになり、また社員を増やすことにした……極端な例だが、このような事態も発生し得る。

 つまり、データドリブンな意思決定をしたとしても、それが本当に正しいといえるのかというその疑念が付きまとう。このような問題が発生する原因について堅田さんは「1つの問題だけしか注視していないと起こり得る」とし、「データ分析の際はもっと欲張りに“あれもこれも知りたい”と考えるべき」と指摘する。

 「この例なら『社員を減らしたら生産性がどのくらい変化するのか』や『この仕事にはどのくらいの人員が必要なのか』『あの仕事にかかる時間はどのくらいか』など、なるべく多くの“仮説”を設定し、それをつなげていくことが大切」(堅田さん)

仮説(問い)からデータから分かる事実までを体系化して整理

 人件費を減らしたいから人を減らす、のように1つの仮説の答えを出しただけで満足せず、複数の仮説の答えを導いていく。そうすることでデータを読み取る思考はブラッシュアップされていくという。この仮説を立て試行錯誤する過程は、主観が入るため絵や文章を書くことに近く、堅田さんは「アーティスティックな作業」としている。

 その上で、仮説にこだわりすぎることにも警鐘を鳴らす。主観が入るからこそ、それは“思い込み”にも変わる可能性があるため、データが持つファクトを捻じ曲げてしまうリスクがある。データによるファクトと仮説によるアート、この2つの要素を混同しないように使い分けることが重要になる。

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