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食品のカロリーや栄養を測定できる電子レンジ 窓から漏れ出るマイクロ波をリアルタイム分析Innovative Tech

» 2022年10月19日 08時00分 公開
[山下裕毅ITmedia]

Innovative Tech:

このコーナーでは、テクノロジーの最新研究を紹介するWebメディア「Seamless」を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。

 米The Ohio State Universityの研究チームが発表した論文「WiNE : Monitoring Microwave Oven Leakage to Estimate Food Nutrients and Calorie」は、マイクロ波を用いて食品の栄養成分やカロリーをリアルタイムに推定する電子レンジを提案した研究報告だ。電子レンジを使用している際に窓(フロントパネル)から漏れ出るマイクロ波を捉え、その食品中の栄養成分とカロリーを測定する。

食品の栄養とカロリーを推定するためのマイクロ波電力漏えいを感知するWiNEの概要

 現代の電子レンジは、2.45GHzの周波数(マイクロ波)で帯域幅わずか数MHzで動作する。電子レンジでは、誘電加熱と呼ばれるプロセスによって食品が加熱される。具体的には、電子レンジ内の食品の双極性の分子が電磁放射を吸収し、分子振動を引き起こして摩擦熱によって食品を加熱する。

 このように、マイクロ波が食品に与える影響は、食品の誘電特性が支配的な要因となっている。この特性は、高周波の電磁波を吸収する物質の親和性を示すもので、極性分子を多く含む食品は放射線と相互作用する能力が最も高く、従って誘電率が高くなる。逆に非極性分子を含む食品は、親和性が最も低く誘電率も低くなる。

 これは栄養素(炭水化物、脂肪、タンパク質、水など)の割合が高い食品は、誘電率が高くなり加熱が速くなることを示している。この特性を利用すれば、栄養組成に基づいた食品の分類が可能になると研究チームは考えた。

 これまでにも電子レンジ使用時に窓から漏れるマイクロ波をモニターして食品を分類する手法は提案されてきたが、その食品の成分までは識別できていなかった。今回は先行研究の進化版と位置付け、食品の特定だけでなく栄養成分とカロリーを予測する課題を検証する。

電子レンジ周辺のマイクロ波漏えいのヒートマップ

 実現するために、電子レンジの窓から漏れ出るマイクロ波を捉えて加熱される食品の栄養成分とカロリーをリアルタイムで推定するための無線周波(RF)センシングシステム「WiNE」(Wireless Nutrient Estimator)を開発した。このシステムは電子レンジの誘電特性を利用し、食品に含まれる栄養素(炭水化物、脂質、タンパク質、水分)の含有率を分類するものである。

 システムの特徴として時間領域と周波数領域の両方をモニタリングすることが挙げられる。時間領域の観測は初期化パラメータを設定するのに役立ち、周波数領域のスペクトログラムは栄養成分の割合の推定に役立つ。学習用として、150種類の食品とその誘電率、栄養成分の割合がラベル付けされたデータセットを用いる。

 実験では、漏れ出るマイクロ波を取得するために、無指向性の受信アンテナを電子レンジのフロントパネルから6cmの距離に設置した。

実験時のセットアップ
実験時に測定した食品の一部

 測定は家庭用電子レンジ内のターンテーブルに食品が入った容器を置いて行う。さまざまな食品を対象に計測した結果、WiNEは食品の栄養成分を平均絶対誤差5%以下で推定でき、食品のカロリーを約0.97の高い相関性で推定することができた。

 現段階では食品中の食物繊維を分類できていないため、次の課題としている。食品サンプルの適切なデータセットで学習ができれば、食物繊維を多く含む食品へのマイクロ波の影響を推定することは可能だろうという。

Source and Image Credits: Avishek Banerjee and Kannan Srinivasan. 2022. WiNE: Monitoring Microwave Oven Leakage to Estimate Food Nutrients and Calorie. Proc. ACM Interact. Mob. Wearable Ubiquitous Technol. 6, 3, Article 99 (September 2022), 24 pages. https://doi.org/10.1145/3550313



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