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ロボットはカウンセラーに適性あり? 子供との間に信頼関係は生まれるのかウィズコロナ時代のテクノロジー(1/2 ページ)

» 2022年11月08日 08時00分 公開
[小林啓倫ITmedia]

 パンデミックは、感染症による身体への悪影響という直接的な被害に加えて、別の形でも人々の健康な生活を脅かす。その一つが、メンタルヘルスへの影響だ。感染症対策として行われるロックダウンなどの移動制限により、親しい人々との交流が阻害される。そうした移動制限などによる不況で仕事や収入が減った結果、生活水準全体を落とさざるを得なくなるなど、パンデミックはさまざまな理由から人々の精神面に打撃を与える。

 例えばOECD(経済協力開発機構)の発表によれば、新型コロナウイルスのパンデミックが始まって以降、精神的苦痛のレベルが特に若者の間で急激に高まっており、一部の国々では不安と鬱(うつ)を訴える人々は2倍に増加しているとのことである。

OECDの発表

 こうした人々を救うことが、パンデミック後の経済回復をいかに早く進められるかに大きく影響すると指摘する専門家もおり、メンタルヘルス問題は世界各国で主要なテーマとして認識されている。こうした中、テクノロジーの力で人々のメンタルヘルスの維持や改善を進めるというアイデアが各地で検証されている。その一つが、ロボットを活用するというものだ。

ロボットによる子供のメンタルヘルス把握

 2022年9月、英ケンブリッジ大学のロボット工学者、コンピュータ科学者、そして精神科医から成るチームが、IEEE(Institute of Electrical and Electronics Engineers)のカンファレンスにおいてロボットに関するある研究結果を発表した。

英ケンブリッジ大学が発表した研究内容の概要

 「ロボットは子供の精神的状態の評価に役立つか?(Can Robots Help in the Evaluation of Mental Wellbeing in Children?)」と題されたこの発表は、文字通り、ロボットを子供のメンタルヘルス支援に役立てるアイデアを検証したものである。

 その内容はこうだ。8歳から13歳までの被験者28人とその保護者を集め、まずは子供の精神面での健康状態を測定するアンケートを実施する。その後、被験者にそれぞれ45分間、仏Aldebaran Robotics(現ソフトバンクロボティクス・ヨーロッパ)の小型人型ロボット「Nao」と1対1でセッションを行ってもらう。セッションは以下の通り。

小型人型ロボット「Nao」
  1. 過去1週間の楽しかった思い出と悲しかった思い出について答えてもらう
  2. SMFQ(Short Mood and Feelings Questionnaire、短い気分および感情質問票)に基づいて質問と回答を実施する
  3. CAT(Children’s Apperception Test、児童統覚検査)を基に、示された絵に関連する質問に答えてもらうという課題を実施する
  4. RCADS(Revised Children's Anxiety and Depression Scale、改訂された子供の不安とうつ病の尺度)を実施する

 このセッション中には、子供がロボットに話しかけたり、Naoの手や足にあるセンサーに触れたりするなど、ロボットとのインタラクションを行った。また、Naoに追加で装備されたセンサーにより、セッション中の子供の心拍、ならびに頭・目の動きが把握できた。

 つまりこの実験では、ロボットが一種の心理カウンセラーのような存在になり、子供の精神状態を客観的に把握するためのテスト(この実験とは関係なく通常の人間の専門家も使用しているもの)を実施したわけである。

 結果はどうなったか。子供たちはロボットに積極的に自分の気持ちを打ち明け、オンラインや対面でのアンケートという標準的な評価方法では話してくれないような情報をNaoに話すケースも見られたそうだ。

 これを受けて研究者らは、ロボットが専門家によるメンタルヘルス支援の代替となるとまでは言えないものの「従来のメンタルヘルス評価手法における有用な追加手段となり得る」という結論を下している。

 ケンブリッジ大学コンピュータ理工学部で情緒知能・ロボット工学研究室を率いるハティセ・グネス教授は「子供はスキンシップを好むが、同時にテクノロジーに心を引かれる。そのため画面上で動作するツールを使っていると、物理的な世界からは遠ざかってしまう。しかしロボットは物理的な世界に存在するため、よりインタラクティブになり、子供たちの興味を引くことができる」と指摘

 また、この研究の筆頭著者であるケンブリッジ大学のニダ・イトラット・アバシさんは「子供は大人に話すよりも、ロボットに話す方が、いじめられているというような個人情報を打ち明けやすい」という研究結果もあることを紹介している。

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