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ロボットはカウンセラーに適性あり? 子供との間に信頼関係は生まれるのかウィズコロナ時代のテクノロジー(2/2 ページ)

» 2022年11月08日 08時00分 公開
[小林啓倫ITmedia]
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社会的支援ロボットの可能性

 ロボットをメンタルヘルス対策の分野で使用する、というのは新しいアイデアではない。日本でも「パロ」というセラピー用ロボットが製品化されていることをご存じの方も多いだろう。

アザラシ型のロボット「パロ」

 これはアザラシ型のロボットで、さまざまなセンサーが内蔵されており、なでたり抱きしめたりといった人間側のアクションに反応して、本物のアザラシのようにかわいい姿を見せてくれるというものだ。この反応が人間のメンタルヘルス改善に効果があることが実証されており、2002年にはギネスブックで「世界で最もセラピー効果があるロボット」として認定も受けている。

 こうした人間とのインタラクションを行い、それを通じて相手に何らかのケアを行うロボットを、社会的支援ロボット(SAR: Socially Assistive Robots)と呼び、前述のケンブリッジ大学のハティセ・グネス教授もSARの研究を行っている。開発したのは「キウイ」と名付けられたロボットで、自閉症やその他の発達障害がある子供とインタラクションし、それを通じて子供たちの社会性や認知能力の成長を促すことが目的だ。

 ロボットは画一的な反応をするのではなく、相手となった子供たち一人一人のニーズに合わせてカスタマイズされ、長期的な行動目標に向けて子供たちを導いていける。実際に研究結果から、SARとの対話を通じて、自閉症児の学習意欲を高めると同時に、社会的行動を改善する効果が確認されたそうである。

 つまりロボット、特にSARに分類されるようなロボットは、人間と同等の心理的な関係を他の人間と構築することができるわけだ。そして今回のケンブリッジ大学が発表した研究結果は、ロボットが人間の大人以上に子供からの信頼を得て、彼らが隠している心情や本音を探り出せる可能性があることを示すものだろう。

 COVID-19による子供のメンタルヘルス悪化は、大人以上に深刻であるという指摘もある。UNICEFが2021年に発表した報告書によれば、世界全体で10〜19歳の若者の7人に1人以上が精神障害と診断され、また15〜24歳の若者を対象に行われたアンケートでは、5人に1人が「よく落ち込む」「物事にあまり興味を持てない」と回答したそうである。

 また同報告書では、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスによる分析結果を引用しており、それによると、若者の障害や死亡につながる精神障害による経済への損失貢献は、年間約3900億ドル(約57兆円)にも達すると推定されるとのことだ。

 ちなみにケンブリッジ大学の研究で使われていたNaoだが、今オンラインで公表されているさまざまな販売店の価格を確認すると、バージョンにもよるが1台150万〜170万円ほどで購入できるようだ。

 決して安い額とはいえないが、東京都の年間予算(およそ7兆円)8年分にも匹敵する経済損失が毎年生まれていることを考えれば、SARを子供たちのメンタルヘルス支援に活用するというのは十分にあり得る話だろう。もしかしたら「人間よりもロボット・セラピストの方が秘密を打ち明けやすい」というのは、大人にも共通する感覚となるかもしれない。

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