一般家庭においては、一時期プロジェクター普及に有望なタイミングはあった。ソニーが2011年から、ビデオカメラの液晶モニター部分に小型プロジェクターを付け、撮影した映像を投影できる「HDR-PJ」シリーズを商品化し、ヒット商品となった。
昼間に公園で撮影した子供の姿を、夜に天井に投影しながら寝かしつけをすると、イチコロで寝るのである。こうした使い方が保育園・幼稚園の保護者間で広まった結果、幼児の子育て世代に大ウケした。翌年にはHDMIから外部入力できるなど、ちゃんとしたプロジェクターとして機能するようにもなっていった。
もしこの機能をコンパクトサイズのプロジェクターとして独立させていたら、そこそこ需要があったかもしれない。だがあくまでもビデオカメラの販促要素であった本機能は、2017年の「HDR-PJ680」を最後に姿を消した。
PJシリーズの功績は、それまでどこかにスクリーンを張るか、白い壁が必要だと思われていたプロジェクターの投影先に、「天井」というスペースを発掘したことである。和室の天井は木目柄だったりするが、洋室なら大抵は白い壁紙が張ってある。真ん中にシーリングライトがあったとしても、天井の半分ぐらいの面積が使える。手狭な日本家屋の中で、6畳間なら横2.4m縦1.3mほどの投影スペースを見つけ出したのは大きい。
実際この時期に、マイクロプロジェクターともいえるジャンルの商品が誕生している。2016年に韓国SKテレコムが商品化した「Smart Beam Laser」は、驚異的な小型化を実現したモデルとして多くの人の記憶に残った製品だろう。
そして2018年には、缶ジュースサイズで約4万円という小型プロジェクター、Anker「Nebula Capsule」および「Nebula Capsule Pro」がデビューする。サイズ的にも、家族で見るというより、パーソナルユースの方向性を強く打ち出した製品だった。Androidを搭載し、ネットサービスが使えるので、単体でコンテンツが楽しめる。設置場所を固定しないという使い方へ、一歩踏み出した。
ただこのコンパクトシリーズは、後継モデルの「Nebula Capsule II」でも200ルーメンしかなく、夜に明かりを消した状態でなければよく見えなかった。小型ゆえにキャンプなどでも有効だとは思うが、ブームのソロキャップはどちらかというと世俗的なものから離れるという趣向のため、わざわざキャンプに行ってまでプロジェクターでYouTubeを見るみたいな流れにはならなかった。
同じく2018年には、シーリングライトも兼用することで天井に常設する「popIn Aladdin」が登場した。これは映像コンテンツを見るだけにとどまらず、時計やバーチャルウィンドウ(窓から見える風景を投影する)など、インテリアとして日常的に使えるプロジェクターを目指した意欲作だった。ただ、今このような常時情報を表示し続けるスクリーンなら、Amazon Echo Show 15のほうが優れている。 この8月、「popIn Aladdin」の事業は、中国XGIMIに買収された。
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