業務の中にデータ分析を導入し、データドリブンな意思決定を行う企業が増えつつある。BI(ビジネスインテリジェンス)ツールや帳票管理ツールを提供するウイングアーク1st(東京都港区)の調査によると、半数以上の企業がデータ活用に注力していると答えたという。一方、一部では分析に時間をかけすぎてしまう「分析疲弊」に陥っていると答える声も上がった。
同社の執行役員でData Empowerment事業の事業部長を務める大澤重雄さんは「データを分析できても活用にまでつなげることが難しく、属人的に行うことで分析疲弊を起こしやすい傾向がある」と指摘する。なぜ分析疲労は起きてしまうのか。また、その改善方法はあるのか。大澤さんに話を聞いた。
コロナ禍での守りの姿勢を脱し、データ活用に投資する企業が増えている。一方、ノウハウや人材の不足により、スタートダッシュに失敗する企業もみられる。本特集では、これからデータ活用を始めるに当たって必要な知見を、成功事例や専門家への取材から探る。
同社では売上高100億円以上の企業の役職者530人を対象にデータ活用の実態調査を行った。まず自社のデータ活用レベルを聞いたところ、「業務改善、オペレーション効率化(チーム、部門単位など局所的にデータ活用の仕組みが用意されている)」と答えたのは25.5%、次点で「パーソナル業務における効率化(個人のスキルレベルに沿いExcelなどを利用しデータ活用を行っている)」が17.2%で続いた。
データ分析を行っていると答えた人(n=389)のうち、データ活用・分析に注力しているか尋ねると、「非常に注力している」が29.0%、「やや注力している」が51.9%となり、計80.9%の企業がデータ活用・分析に注力していることが分かった。
注力していると回答した276人に、データ分析で分析疲弊は起きているか聞くと、「頻繁に起きている」が16.3%、「やや起きている」が54.0%になった。この結果に対し、大澤さんは「分析疲労が起きる一番の原因は活用するためのデータの準備に労力がかかるためではないか」とし、バラバラのデータソースを統合し、編集など、データ加工に多くの時間を要していることが要因にあるのではと推察している。
また、社内でデータ活用推進チームを編成する場合にも分析疲労が起こり得るわなが潜むという。「データ分析に詳しいメンバーは、データを活用したい業務の実態や課題感が分からない場合がある。逆に活用する部署の業務に詳しいメンバーはデータ分析には詳しくない場合もある。データ活用を行うには、さまざまな部門を巻き込み、調整しなくてはいけない場合が多く、それも疲労の一因ではないか」(大澤さん)
これらの苦労を乗り越え、経営層や各部門からリクエストされたデータ分析の結果をなんとか提出したとする。しかし、必ずしも経営層はそのデータを意思決定に反映するとは限らず、事業部門も実際の業務にも反映しない……そんな事象も発生しがちであると、大澤さんは指摘。このような結果も、疲弊に拍車を掛ける要因としている。
分析疲労を改善する方法として大澤さんは、データ分析可能な環境や体制の構築がまずは重要とし、「その上で推進チームを構築する際、偏った部門で体制を構築するのではなくシステムに詳しい人や現場業務を理解・把握した人をチームに巻き込む。また、経営チームの理解と後押しのもとに進めていく必要がある。組織間連携がうまくいけば、疲労を脱し、明らかな結果に結び付く」(大澤さん)
同調査では、データ活用・分析に注力していると答えた人たち(n=374)にデータ活用・分析を行う担当者は誰かも尋ねている。結果、「社内にいる専門家」が54.3%、「社内の非専門家」が49.7%、「外部人材」が20.9%となった。「社内にいる専門家」と答えた人に自分でデータ活用・分析を行うことに不安を感じるか尋ねると、「非常に不安に感じている」が14.4%、「やや不安に感じている」が45.7%になった。
データ活用をこれから始めるために、初心者はまず何から手を付けるべきか。大澤さんは「最も重要なことは、そのデータから得た情報を利用して実際の業務で実践すること。データ活用ツールと業務ツールの距離があることは望ましくない」と話す。
続けて「携わる業務にもよるが、まずは自身が実践している業務のデータと触れ合ってみる。そこからレポーティングやデータ分析を実現し、徐々に対象の業務やデータソースの幅を広げていきながら関係する人を広げ、巻き込んでいくといい」とも説明した。
初心者が選ぶべき分析ツールについては、「自社のデータ活用レベルにあったサービスを選択すべき」と助言する。なぜなら、いきなり高度なツールやサービスを導入しても使いこなせず、使われないシステムとなる場合があるためだ。そのため、多くの人にとって使い慣れているであろうExcelは、初心者にもおすすめの分析ツールとして挙げた。
「Excelのピポットテーブルでも十分にデータの状況の把握ができ、一つの解決方法ではある。一方、Excelの限界(件数やレスポンス、レポートの共有など)があることを認識しつつ、Excelからステップアップするロードマップをあらかじめ考えておくとよりスムーズにステップアップできるし、データ分析を続けて上で必要になっていくと思う」と大澤さん。
データ活用の導入に成功したクライアントの事例として、データ活用のメリットを感じられる作戦で成功した例があるという。大澤さんは3つの手段を紹介した。
1つ目は、データの見せ方の工夫を徹底すること。例えば、直感的に内容が理解しやすいグラフや図を用意し、さらに深く知りたい人向けにワンクリックでより詳細な情報を提示する。ファーストビューで端的にデータを見せ、深く知りたい人向けにデータを深掘りできる仕組みとすることで、多くの人にデータ活用の便利さを実感してもらうことを狙うというものだ。
2つ目には、botなどを使った自動配信機能を利用した取り組みを挙げた。決まった曜日や時間にデータや分析結果を自動通知することで、効率化につながることを実感してもらうことを狙う。また、配信先の人たちそれぞれが業務に必要なデータがなにか、判断できるようになる効果も生じるという。
最後に挙げたのは、データを入力する手間をなくす取り組みだ。外部のデータを簡単に取り込める仕組みや、簡単な入力画面を導入などを挙げている。この取り組みを一部の報告業務に取り入れたことで、データによるシンプルでイメージしやすい報告が可能に。報告を受けたメンバーも効率化を実感しやすく、データ分析導入に一役買った事例があったという。
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