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スマホで「隠しカメラ」を手軽に見つけられるアプリ 赤外線カメラを付け、熱画像を取得 米国チームが開発Innovative Tech

» 2022年12月05日 08時00分 公開
[山下裕毅ITmedia]

Innovative Tech:

このコーナーでは、テクノロジーの最新研究を紹介するWebメディア「Seamless」を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。

 米セントルイス・ワシントン大学、米テネシー大学に所属する研究者らが発表した論文「HeatDeCam: Detecting Hidden Spy Cameras via Thermal Emissions」は、熱画像で隠しカメラを見つけられるアプリを提案した研究報告だ。スマートフォンに赤外線カメラを取り付けるだけで、充電器や電気スタンドなどに仕込まれた隠しカメラを見つけることができるという。

スマートフォンに赤外線カメラを取り付け、広範囲をキャプチャーするだけで隠しカメラを発見できる

 隠しカメラはスパイカメラとも呼ばれ、一般的な物に隠したり、偽装して使用されるビデオカメラで、人に気付かれずに録画することを目的として設置される。2017年、韓国では6400件以上の不正な撮影の報告があり、その多くはホテルで行われたという。

 Airbnbの宿泊施設では、132件に1件の割合でカメラが設置されており、17%以上がそのカメラの設置場所を明示していないという事件がまん延していると報告されている。

 スパイカメラによる違法録画という脅威に対処するため、既存のアプローチでは一般的に、無線周波数(RF)信号と光反射に基づく光学式の2つの方法に分類される。

 RF信号による検知では、無線カメラのネットワーク通信によるRF放射を捕捉することでスパイカメラを発見する。だが、この方法は無線接続したスパイカメラにのみ適用可能であるため、市場の約4割に適合できない欠点を持つ。

 光学式は、レンズの反射を利用してスパイカメラを検出する方法である。市販の光学式検出器は、内蔵のLEDから赤色光を発し、反射を利用したユーザーの主観的な判断を支援する。しかし、反射の質がユーザーの相対的な位置に大きく依存するため、制約が大きい欠点を持つ。

 これら課題を解決するために、この研究では深層学習ベースの自動検出システム「HeatDeCam」を提案する。HeatDeCamは、赤外線カメラのアタッチメントから熱画像と可視画像の両方を同時に取得し、シーン内にスパイカメラが存在するかどうかと、その場所を提示する。

スパイカメラの隠し場所が分かる熱画像

 

 分析モデルは、熱画像と可視画像のペアで学習した軽量のResNetベースの畳み込みニューラルネットワークを採用している。独自に作成したデータセットには、温度などの環境条件が異なる6つの部屋から収集した11台のカメラによる2万2506枚の熱画像と可視画像が含まれる。

HeatDeCamの概要

 実験により評価するため、HeatDeCamのプロトタイプをAndroidアプリとして実装し、サーマルカメラのアタッチメント(100米ドル相当)をスマートフォンに取り付けた。参加者5人を対象に、複数のスパイカメラが隠れた部屋を探させた。充電器やデジタル置時計、写真立てなどに隠れ、これらのスパイカメラのうち3台はWi-Fi通信に対応している。

(左)セットアップ、(中央)電気スタンドに仕込んだカメラ、(右)本の後ろに仕込んだカメラ

 結果、スパイカメラの検出率は86.7%であった。この精度は他の検出器(RFと光学式)よりも高い結果となった。また、ほとんどの参加者がアンケートにおいてHeatDeCamが役に立ったと回答した。

 今回の手法は、既存の手法と比較してネットワーク接続した/接続していないスパイカメラの両方に適用可能で、また事前に特定した場所ではなく、より広い範囲での検出が可能であるため、専門家でなくても簡単に利用することができる。

Source and Image Credits: Zhiyuan Yu, Zhuohang Li, Yuanhaur Chang, Skylar Fong, Jian Liu, and Ning Zhang. 2022. HeatDeCam: Detecting Hidden Spy Cameras via Thermal Emissions. In Proceedings of the 2022 ACM SIGSAC Conference on Computer and Communications Security (CCS ’22). Association for Computing Machinery, New York, NY, USA, 3107-3120. https://doi.org/10.1145/3548606.3560669



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