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この先スマートウォッチはどこへ向かうべきか? 日本には世界にまだない“巨大なニーズ”がある小寺信良のIT大作戦(1/2 ページ)

» 2022年12月05日 17時00分 公開
[小寺信良ITmedia]

 10月13日にGoogleが同社初となるスマートウォッチ「Pixel Watch」を発売したことから、またあらためてスマートウォッチに注目が集まっている。筆者はちょうどGoogleローカルガイドのクーポンが発行されて15%オフで購入できることから、予約開始となった10月7日に早速ストアへログインした。

 ゴールドのLTEモデルをカートにいれ、ついでにベルトも予約して決済しようとしたところ、エラーしてしまう。決済のカードを変えたり、ブラウザを変えたり、スマホから買おうとしてみたりしたが、全てエラー。

 どういうこっちゃいと思いながらトップページを眺めていたら、なんと決済画面からはカートに入れられたベルトが、また未発売だということがわかった。なんだよもーと思いつつ本体だけ買おうとしたら、なんと完売。せ、せめてWi-Fiモデルでも…と思ったらそちらも完売。なんだかバカバカしくなってしまって、購入する意欲を失ってしまった。

 筆者は過去、初代Apple Watchは購入したものの、角形のフォルムがしっくり来ず、当時まだ珍しかったモトローラ製の丸形を2世代使い倒した。それ以降はXiaomiのスマートバンドを2世代、Samsungのスマートバンドも1つ使ってきたが、現在は再びスマートウォッチに戻り、「Amazfit GTR 3 Pro」を常用している。

現在使用中のAmazfit GTR 3 Pro

 スマートバンドもそうだが、Amazfit GTR 3 Proはバッテリーの持続時間が長い。10日ぐらいはそのまま動くし、下位モデルのAmazfit GTR 3は妻が使っているが、20日ぐらい充電しなくても動いている。「Pixel Watch」はバッテリー持続時間が24時間程度とあとから分かって、最新モデルでもまだそんなもんなのかと驚愕した。調べてみると、Apple Watchはいまだ18時間、低電力モードでも最大36時間となっている。LTEモデルは通信で電力を食うだろうというのは分かるのだが、毎日充電が必要になるのでは睡眠のログも取れないし、出掛ける時に忘れそうだ。

「出掛ける時に忘れるとかオジイチャンかよ」と笑われるかもしれないが、実はオジイチャンが使う世界というのは案外アリなのかもしれないと思っている。

 筆者は5年前に母を、2年前に父を亡くしている。どちらも老衰との診断で、ある意味大往生ではあるのだが、どちらも死に目には会えなかった。特に父は同じ宮崎に住んでいながら、たまたま筆者が東京へ出張中に亡くなったという無念さが残る。

 介護は姉の自宅で行なっており、週に1度は訪問看護師がバイタルチェックも兼ねて様子を見に来ていたが、もう少し小まめにバイタルがチェックできていたら、死期が近いことはわかったのではないか。今のスマートウォッチでは難しいのかもしれないが、製品自体がもやは特殊なものではなく潤沢に出回っている現在、高齢者へむけての市場はありうるのではないか。

用途がブレ続けてきたスマートウォッチ

 スマートウォッチが多くの人に認知されたのは、やはりApple Watchの発売からだろう。日本では2015年4月の発売だったようだ。

 リンクの記事にあるように、当初スマートウォッチは、スマートフォン依存を解消するためのもので、スマートフォンの多くの機能を代用できると期待された。しかし実際には小さい画面でできることには限界があり、多くの人は代用ではなく、アドオンにしかすぎないことに気付き始めた。

 つまり、将来的には良いものになるとは思うが、今現在価格に見合うだけの用途が分からない、というものだった。高級ブランドとのコラボモデルに至っては、要するに「高い時計」でしかないことを露呈させたようにも思えた。筆者も初代Apple Watchで一番利用したのは、調理時間を測るタイマー機能だった。

 一方でスマートウォッチが注目される少し前から、「Fitbit」や「Jawbone UP」といったウェアラブルセンサーが人気だった。これで活動ログを取り、フィットネスの記録管理を行なうわけである。高級時計路線には乗れない他社は、各種センサーでバイタル情報が取れることから、こうした流れを取り込み、「デジタルヘルスケア」という文脈の中でスマートウォッチを成長させる道を選んだ。

今でも多くの人が、スマートウォッチやスマートバンドなど、なんらかの形で運動を記録しているものと思う。機能的にも成熟してきているが、以前よりはこの路線は下火になっているように思える。

まだ機能的に珍しかった頃は、同じサービスを利用している誰かと記録を比べたり競争したりして、モチベーションを上げるといった機能も提供された。だが常に競争にさらされ、勝ち続けるのは容易なことではない。そもそもそこまでガッツがあるなら、肥満にはなっていないはずなのだ。こうした機能は、いわゆる「運動ガチ勢」が席巻し、「ちょっと運動が必要ですねー」と健康診断で注意されるぐらいのユーザーには、つらいだけの機能となった。

 つまりデジタルヘルスケアではもう差別化はできなくなったし、多くの人はそこに興味がなくなってきた。ここ最近のスマートウォッチの評価軸は、Suica対応か否かに絞られてきている感がある。改札を通る際やちょっとした買い物にいちいちスマホを出すのが面倒だ、というニーズがあるのだろう。

 だがこの機能の恩恵を受けるのは、通勤や移動が多い都市部の一部のユーザーだけである。全員フルリモートで会社にはあんまり行かないようなIT系職種の人と、スマートウォッチは親和性が高いわけだが、それではニーズとユーザー層がかみ合わない。また地方ではそもそも電車もバスも乗らないし、コンビニ決済はバーコード式の圧勝なので、筆者のSuicaの利用履歴は8月に東京出張して以来、ゼロである。

 加えて大手ではLTE対応モデルも拡充してきているが、その意義も問われてきているところだ。Wi-Fiモデルと違い、スマートフォンを持ち歩かなくても単体で電話の応答ができるといったメリットがあるが、今どきそんなに電話回線経由で着信があるのか、という疑問もある。今や通話はLINEやメッセンジャーが主体だし、外出先でいきなりスピーカー通話になっても困る。そもそもそんなに着信頻度の高い人であれば、スマホ本体がないと不便だろう。Bluetoothヘッドセットを耳に突っ込みっぱなしで仕事、というスタイルになっているはずだ。

 運動の記録であれば、Wi-Fiモデルではスマホ本体がなくても記録はできる。スマホが近くに来たときにそのデータをスマホ側に同期する構造になっているので、運動中はスマホ邪魔ですよね、という話はすでに解決済みなのである。第一、そんなにスマホを持ち歩くのが大嫌いという人がスマートウォッチなんか買うか、という矛盾が解決していない。LTE対応がどうしても必要というシナリオが、見つけられていない。

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