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この先スマートウォッチはどこへ向かうべきか? 日本には世界にまだない“巨大なニーズ”がある小寺信良のIT大作戦(2/2 ページ)

» 2022年12月05日 17時00分 公開
[小寺信良ITmedia]
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もう一段下に降りたデジタルヘルスケア

 先日、「HUAWEI Watch GT 3 Pro」を試用する機会があった。「Huawei Health」というアプリと連動し、多くの機能は他のスマートウォッチと大差ないのだが、ちょっと「おっ」と思った機能があった。

HUAWEIの「HUAWEI Watch GT 3 Pro」

 「Healthy Living」というタスク管理アプリの中に、薬のリマインダーが設定できるのだ。こうした機能は、スマホアプリ上では「お薬手帳」的なものについているものもあるが、スマートウォッチの機能として乗ってくるというのは、なるほどなと思った次第だ。

TODOとして薬のリマインダーが設定できる

 つまりこれまでスマートウォッチのデジタルヘルスケアは、「すでに健康な人がそれを維持するため」の機能に集中しすぎていたのではないか。例えば1時間起きに立ちあがりましょうみたいな機能は、集中してやってしまいたい系の仕事の場合、もはや大きなお世話である。

 それよりも、すでに投薬が必要であったり、リハビリ中であるといった人に対して、もっとできることがあるのではないだろうか。特に薬を飲む習慣がなかったり、食後でも食前でもなく、「食間」という微妙なタイミングで飲まなければならない漢方薬などは、特に忘れがちだ。こうしたリマインドは、個人情報にも関わることなので、仕事のスケジュールとは別にしたいはずだ。

 さらに考えを進めれば、こうしたバイタルチェックや投薬管理みたいなものは、高齢者に対して提供できる機能なのではないか。高齢者はスマートウォッチそのものが使えないだろうと思われるかもしれないが、本人が買って管理すると考えるから無理がある。バイタル情報や転倒アラートなどは、そもそも本人よりも介護する家族が利用するべきものであろう。家族が買って設定し、高齢者に渡しておくのだ。本人は単なる時計として利用すればいい。

 またバイタル情報はクラウド経由で医療機関に逐一同期して、おかしな兆候が出てきたらすぐに医師や看護師にアラートを発するみたいな仕組みはできるはずだ。認知症による徘徊の追跡や、孤独死の防止にも利用できる。どこにいてもこうした機能を利用するためなら、LTE対応モデルの意義はある。

 現在のスマートウォッチで計測可能なバイタルは、心拍数、血中酸素、呼吸速度、皮膚温度で、その他ストレスチェック、睡眠分析などができる。昨今対応が始まったバイタルに、血圧がある。この分野ではオムロンがいち早く医療機器認証を受けたものを発売し、業界をリードした。

 ただ、ちゃんと圧力をかけて測定するため、価格的には10万円近い。一方正確さには欠けるものの、光学センサーを使って血圧が測定できるものも、少しずつ出てきている。この分野で競争が起これば、精度も徐々に上がってくるだろう。

 こうしたニーズが生まれるのは、世界でも日本が最初のはずである。内閣府の「令和4年版高齢社会白書」によれば、日本は世界各国でも高齢化水準がダントツ1位だ。Apple WatchやPixel Wachのお膝元アメリカは欧米中で最も高齢化水準が低く、こうしたニーズは自発的には生まれにくい。アジア地域においては中国が第2位ではあるものの、その差は16ポイント以上開いており、米国以上に若い国であることが分かる。

[cap001.jpg]日本の高齢化水準は世界でもぶっちぎりの1位

 つまりスマートウォッチの開発メーカーが多い米国や中国では、こうしたニーズが起こるのは当分先なのである。今日本がやれるのは、米国製や中国製スマートウォッチに日本独自のソフトウェアを食わせて、高齢者の見守りニーズを立ち上げていくという方法論だろう。

 日本から、世界中のどこにもないスマートウォッチのニーズが立ちあがる可能性がある。ここに関しては、国や自治体、保険会社、健康保険組合らが補助金を出しても、割に合うはずだ。筆者としては、近くにいるのに親の死に目に会えないという人が1人でも少なくなればいいと思っている。

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