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エアコンの気流と温度変化がARで可視化する技術 最も効率的な設置場所の提案に一役Innovative Tech

» 2022年12月12日 08時00分 公開
[山下裕毅ITmedia]

Innovative Tech:

このコーナーでは、テクノロジーの最新研究を紹介するWebメディア「Seamless」を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。

 韓国の高麗大学校とLGエレクトロニクスに所属する研究者らが発表した論文「Virtual Air Conditioner’s Airflow Simulation and Visualization in AR」は、部屋に設置したエアコンから出る温冷風をARで表現できるシステムを提案した研究報告だ。

 リアルタイムに気流の動きと温度変化のシミュレーションと可視化が行える。部屋のメイン(人が集まる場所)を効率的に冷やすエアコンの設置場所探しのサポートなどに活用できる。

エアコンによる温度変化(ヒートマップ)と風量(矢印)を可視化した図

 システムではまず、ユーザーがモバイル端末で室内環境をスキャンし、部屋の環境を3Dで再構築する。再現した部屋にバーチャルエアコンを設置する。エアコンの電源を入れ、ファンの回転数などのパラメータを設定すると、ヒートマップによる温度変化と矢印による気流の動きが可視化される。

 部屋をインタラクティブに編集できるため、実世界にバーチャルオブジェクトを配置できるだけでなく、編集した環境でシミュレーションを行うことができる。またバーチャルエアコンの設置などの基本機能から、時間経過による温度変化を素早く予測するなどの高度な機能まで、使いやすいインタフェースを実現した。

 システムは、ユーザーのモバイル端末をクライアントとする、クライアント・サーバ型のアーキテクチャを採用している。気流や温度変化のシミュレーションにはハイエンドPCが必要なため、3Dモデルはサーバに転送される。

 シミュレーターは気流の速度と温度を出力し、それをクライアントに転送する。カメラトラッキング(姿勢推定)により、クライアントはそれらをARで可視化する。

可視化したエアコンの気流。家具などの障害物によって流れは変わる
(a)エアコンをつけた直後の温度、(b)数分経過後の温度

 実験ではこの手法によるシミュレーションがどれだけ正確かをテストするために、部屋の空間に合計で792個の温度計を3Dグリッドで設置した。大量の温度計により、正確な温度変化が計測できる。この手法との平均絶対誤差(MAE)は0.36℃であった。

 ユーザー調査では、部屋内のメインで使用するエリアの温度をできるだけ早く下げられるエアコンの配置を探すよう、参加者21人に求めた。部屋の初期温度は33℃、エアコンの温度は21℃に設定した。

 結果、直感でエアコンの設置場所を選んだグループよりも、このシステムを用いて設置場所を選んだグループの方が、正確かつスピーディーに配置先を指定した。このことから、このシステムは人の直感ではなかなか決められない、より良いエアコンの位置を支援するものと分かった。

Source and Image Credits: Joohwan Chae, Donghan Kim, Wooseok Jeong, Eunchan Jo, Won-Ki Jeong, JunYoung Choi, Seung-wook Kim, Myoung Gon Kim, Jae-Won Lee, Hyechan Lee, and JungHyun Han. 2022. Virtual Air Conditioner’s Airflow Simulation and Visualization in AR. In 28th ACM Symposium on Virtual Reality Software and Technology (VRST ’22). Association for Computing Machinery, New York, NY, USA, Article 24, 1-11. https://doi.org/10.1145/3562939.3565615



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