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Wi-Fiルーターで部屋にいる人が“呼吸困難”に陥っているかを特定 米研究所が技術開発Innovative Tech

» 2022年12月26日 08時00分 公開
[山下裕毅ITmedia]

Innovative Tech:

このコーナーでは、テクノロジーの最新研究を紹介するWebメディア「Seamless」を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。

 アメリカ国立標準技術研究所(NIST)と米Center for Devices and Radiological Health(CDRH)に所属する研究者らが発表した論文「Monitoring Respiratory Motion with Wi-Fi CSI:Characterizing performance and the BreatheSmart Algorithm」は、既存のWi-Fiルーターを使って部屋にいる人の呼吸運動をモニタリングする手法を提案した研究報告である。

 対象者の胸部に跳ね返ったWi-Fi信号を取得し、深層学習モデルによって呼吸速度と呼吸パターンを分類する。

無響室でWi-Fiを使って呼吸を感知する実験

 睡眠時無呼吸症候群やぜんそく、肺炎、心血管疾患、慢性閉塞性肺疾患などの検出には呼吸モニタリングが役立つ。呼吸気流、呼吸音、胸壁の動きなど、従来の呼吸モニタリング方法は接触型であり、病院に出向いて患者とモニターとの物理的な接続を必要とする。

 患者によっては、家を出れない人やモニターを装着することに抵抗がある人もいる。これらの制限や不快感は、呼吸の変化を引き起こすことでモニタリング結果に影響を与え、不正確な呼吸情報をもたらす可能性がある。

 そこで今回は、非接触モニターとして、既存のWi-Fiルーターを用いて部屋内にいる人の呼吸を手軽にモニタリングできる手法を提案する。対象者に跳ね返ったWi-Fi信号を取得し、あえぎ声や咳などで変化する対象者の呼吸の状態を監視する。

 Wi-Fiでは、スマートフォンやノートPCなどのクライアントからアクセスポイント(ルーターなど)に送信される一連の信号が「チャネル状態情報」(CSI)と呼ばれるものである。CSI信号が環境中を移動すると、物に跳ね返ったり回折などで強度が低下したりしてゆがんでしまう。

 研究チームは、変化を詳細に把握するため、ルーターのファームウェアを変更して、これらのCSI信号をより頻繁に、最大で1秒間に10回要求するようにした。これによって、胸の動きによって変化したCSI信号のゆがみから呼吸運動を検知できるようになる。

 深層学習による処理アルゴリズムでは、CSI信号が表す振幅と位相情報の両方を利用して、異なる微細な動きの特徴を明らかにし、呼吸による胸部運動の高レベルの抽象化を学習し、正確な呼吸パターンと速度推定を行う。

 実験では、医療従事者のトレーニングに使われるマネキンを無響室内に設置し、市販のWi-Fiルーターとレシーバー(受信機)を設置した。このマネキンは、正常な呼吸から異常に遅い呼吸(徐呼吸)、異常に速い呼吸(頻呼吸)、ぜんそく、肺炎、慢性閉塞性肺疾患(COPD)まで、いくつかの呼吸状態を再現できるように設計されている。

市販のWi-Fiルーターとレシーバーをマネキンをセットアップ
実験時のセットアップ
測定セットアップの図

 実験の結果、マネキンでシミュレーションしたさまざまな呼吸パターンを99.54%、呼吸速度を98.69%の精度で分類できることが分かった。

Source and Image Credits: S. Mosleh, J. B. Coder, C. G. Scully, K. Forsyth and M. O. A. Kalaa, “Monitoring Respiratory Motion with Wi-Fi CSI:Characterizing performance and the BreatheSmart Algorithm,” in IEEE Access, doi: 10.1109/ACCESS.2022.3230003.



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