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太陽光がWi-Fiの代わりに? 差し込む日光を窓で変調し、部屋内の無線通信に活用する技術Innovative Tech

» 2022年11月11日 08時00分 公開
[山下裕毅ITmedia]

Innovative Tech:

このコーナーでは、テクノロジーの最新研究を紹介するWebメディア「Seamless」を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。

 サウジアラビアのKing Abdullah University of Science and Technology(KAUST)による研究チームが発表した論文「Design and Analysis of LCD-Based Modulator for Passive Sunlight Communications」は、ガラスを通過する太陽光を変調させ、データを光にエンコードし、部屋の中のデバイスがそれを検知してデコードできるスマートガラスシステムを提案した研究報告だ。

 太陽光をデータ送信に利用することで、従来のWi-Fiやスマートフォンのデータ送信に比べて環境に優しく低エネルギーの通信手段を提供することができる。

室内における太陽光通信システムのイメージ図

 無線通信技術は、主に混雑した周波数帯に悩まされる無線周波数(RF)通信と、レーザーや発光ダイオード(LED)などのエネルギーコストの高いアクティブ光源を必要とする光通信のいずれかに基づいているのが一般的だ。

 一方、太陽光と窓に適応したスマートガラスは通常、光を吸収または散乱させて透過率を制御したり、特定のエリアを照らすために特定の方向に光を偏向させたりすることで、昼光の遮光や操舵(そうだ)に利用されている。また窓をソーラーパネルにした太陽光発電システムも登場している。

 今回は太陽光と窓ガラスを用いて、データを送信するために変調して無線通信のための補完的なソリューションとして利用できないかと考えた。太陽光はコントロールできない光源から放射されるため、入射光を制御する技術が必要とされるため扱いが難しい。

 液晶デバイスは、このような用途に適した応答速度とコントラスト特性を持つスイッチング可能なガラス技術である。この研究では、液晶デバイスの特性を生かした太陽光を変調する窓ベースのパッシブ光通信システムを提案する。

 システムは、ガラス面に埋め込む光変調器と室内用の受信機で構成する。光変調器には、デュアルセル液晶シャッターと呼ぶスマートガラス素子のアレイを独自開発した。

 このデバイスは、重ね合わせて互いに逆の動作をさせる2つの液晶セルと3つの偏光板で構成され、通過する光に信号をエンコードするフィルターのような役割を果たす。動作に必要な電力はわずか1ワットで、小型のソーラーパネルで供給できる。変調した光は、屋内を移動し、偏光方向の異なる2つのフォトディテクタからなる受信機に到達する。

システムの概要図

 さらに、時間と偏光の次元を効率的に利用する太陽光変調器を開発し、データレートの向上とちらつきの除去を実現した。現在、このセットアップで1秒間に16キロビットの速度でデータを送信できるという。今後は、データの転送速度を向上させたいとしている。

Source and Image Credits: S. Ammar, O. Amin, M. -S. Alouini and B. Shihada, “Design and Analysis of LCD-Based Modulator for Passive Sunlight Communications,” in IEEE Photonics Journal, vol. 14, no. 5, pp. 1-17, Oct. 2022, Art no. 7348417, doi: 10.1109/JPHOT.2022.3200833.



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