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夜でも太陽光発電を使うには? “宇宙へ放射される赤外線”に注目、電気に変換する技術を開発Innovative Tech

» 2022年06月01日 07時00分 公開
[山下裕毅ITmedia]

Innovative Tech:

このコーナーでは、テクノロジーの最新研究を紹介するWebメディア「Seamless」を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。

 オーストラリアのUniversity of New South Walesと英ケンブリッジ大学の研究チームが開発した「Thermoradiative Power Conversion from HgCdTe Photodiodes and Their Current-Voltage Characteristics」は、夜間でも太陽光発電に似た原理で電力を生成するシステムだ。夜に地球から宇宙に向けて放射される赤外線の熱を利用して電気エネルギーに変換する。

夜間に放射される赤外線の熱を電気に変換する

 太陽光発電は、昼間の日光を基に電力を生成するシステムなため基本的には夜に発電できない。その時間を活用するため研究チームは、夜間でも発電できるシステムの構築を目指す。

 昼間には太陽光が降り注いているが、夜にはこれと同じエネルギーが赤外線として地球から広大な宇宙空間に熱放射されている。昼間暖められた地球から夜には冷たい宇宙に熱エネルギーが放射されているのだ。

 今回のシステムは、夜に赤外線として大気中に放射される熱エネルギーから変換して電気を発生させる。昼間と夜間どちらの発電方法も温度差によって発電させる仕組みなため、そういう意味では似ている。

 赤外線から発電するために、暗視スコープに含まれる材料で構成された「サーモラジエイティブ・ダイオード」という半導体を使用する。このデバイスを使えば、夜間にどれだけの熱放射があるか見ることができる。

赤外線カメラにより、夜間に大気中に放射される熱量

 わずか12.5℃の温度差で、4.7μm付近で発光するフォトダイオードのピーク熱放射電力密度2.26mW/m2を測定し、放射効率1.8%と推定された。この結果は、中赤外半導体で高い放射効率を達成することが、今回の発電の実現に必要であることを示唆している。

 現時点での発電量はソーラーパネルの10万分の1程度と非常に小さいが、将来的には改良が可能であるという。

 今回の手法を使えば、原理的には体温でも発電できるという。例えば、人工心臓などのバイオニックデバイスは、現在、定期的に交換する必要のある電池で動作しており、交換時の感染症リスクを抱えている。もし体温での発電が実現すれば、電池が不要になるか、もしくは充電用の電池を充電することが今回の方法で可能になるだろうという。

Source and Image Credits: Michael P. Nielsen, Andreas Pusch, Muhammad H. Sazzad, Phoebe M. Pearce, Peter J. Reece, and Nicholas J. Ekins-Daukes “Thermoradiative Power Conversion from HgCdTe Photodiodes and Their Current-Voltage Characteristics” ACS Photonics 2022 9 (5), 1535-1540 DOI: 10.1021/acsphotonics.2c00223



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