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「猫に指先をなめられるムズムズ感」を体験できるグローブ 皮膚に電気刺激、きめ細かな触覚を生成Innovative Tech

» 2022年11月04日 08時00分 公開
[山下裕毅ITmedia]

Innovative Tech:

このコーナーでは、テクノロジーの最新研究を紹介するWebメディア「Seamless」を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。

 中国のTencent TechnologyとCity University of Hong Kongの研究チームが発表した論文「Super-resolution wearable electrotactile rendering system」は、瞬時に高い感度を皮膚に提示できる触覚グローブを提案した研究報告だ。指先と手のひらの電極で構成し、電気刺激を直接皮膚に与えることできめ細かな触覚を瞬時に生成する。

指先と手のひらの電極で構成する触覚デバイス

 ここでいうきめ細かな触覚とは、解像度(空間分解能)が高いことを示す。ディスプレイの解像度が高いときれいに映るように、皮膚への刺激も解像度が高いと、きめ細かな触覚を生成できる。1本の指で押される感触よりも、独立して動く何十本の指で押された感触の方が多様でリアルな触覚を再現できるイメージである。

 既存の触覚刺激デバイスのような、振動や空気圧アクチュエータ、機械的アクチュエータなどを用いた触覚刺激では応答速度も遅く解像度が低い提示しかできなかった。一方で応対速度が速く解像度が高い電気刺激による触覚デバイスも研究が進んでいるが、角質層を貫通するために数百ボルトが必要であり安全性の面で懸念があった。

 これらの制限を解決するために今回の研究では、ミリメートル単位の空間分解能とサブミリ秒単位の時間精度で人の手に触覚を提示できる安全な電気触覚レンダリングシステムを提案する。

 この電気触覚デバイスは、皮膚内の局所的な領域に直接電流を発生させる手法で、刺激電流の波形や周波数、時間、位置の変化により、振動やピリピリ感、かゆみ、圧迫感などさまざまな感覚を誘発することができる。

 電気触覚デバイスは、指先と手のひらに分かれている。指先は、電極アレイとゴム製フィンガーコットで構成しており、薄いフレキシブルプリント回路の一部に5×5の指先電極アレイを作製し、接触電極には半球状の銅パット25個を使っている。

 手のひらは、スクリーン印刷技術によって作製した10×10電極アレイで構成。各電極の半径は1.5mmで、隣接する2つの電極間の距離は6mmである。

 この触覚デバイスは、13〜28Vという低い刺激電圧で、軽いタッチから鋭いチクチク感までの触覚を誘発することができ、さらにクローズドループフィードバック回路を組み込むことで、接触電極の電気的条件の変化に素早く対応し、安定した感覚を提供する。高空間分解能(76dots/cm^2)と高速リフレッシュレート(4kHz)を達成した。

 20人の参加者を対象に、触覚から複雑なパターンを識別してもらうユーザー調査を行って有効性を評価した。VR内で猫と触れ合う実験では、猫に指先をなめられるとムズムズする感覚を得られ、また猫の毛をなでると、なでる方向や速度の変化に伴って、ざらつきの違いが手のひらで感じられたという。

 バーチャルショッピングでは、衣服の素材が触った指から理解できるなど、これまで困難であった詳細な触覚が得られた。

VR内の猫と触れ合ったり、バーチャルショッピングで服の質感を確かめたりする実験

 別の実験では、指先に触覚刺激でなぞった数字やアルファベットを当てる点字ディスプレイテストを行った。参加者が指先の電気触覚デバイスによってレンダリングした文字を解読して書き留めた結果、数字や文字を認識できることを示した。

指先に与えられるストークの触覚フィードバックから数字や文字を当てる実験

 最後に、厚い保護手袋を装着したまま、微小な部品を高速かつ正確に位置決めするタスクを想定して、指先への触覚刺激だけで半径1mm、厚さ0.44mmの小さなスチールワッシャーの位置を素早く正確に特定できるかの実験を行った。

 結果、ワッシャーを捉えることができた。この結果は、宇宙飛行士や消防士、深海潜水士が防護服からは行えない、高忠実度の触覚提供を表している。

Source and Image Credits: Weikang Lin, Dongsheng Zhang, Wang Wei Lee, Xuelong Li, Ying Hong, Qiqi Pan, Ruirui Zhang, Guoxiang Peng, Hong Z. Tan, Zhengyou Zhang, Lei Wei, and Zhengbao Yang. Super-resolution wearable electrotactile rendering syste. 9 Sep 2022 Vol 8, Issue 36 DOI: 10.1126/sciadv.abp8738



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