このコーナーでは、テクノロジーの最新研究を紹介するWebメディア「Seamless」を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。
大阪芸術大学とATR(国際電気通信基礎研究所)の研究チームが開発した「猫の身体の柔軟性と流動性を表現したリラクゼーションロボット」は、呼吸や身体に触れたときの動作などを忠実に再現する猫型ロボットだ。耳や尻尾が備わった四足歩行で活発に動く猫型ロボットではなく、リラックスした猫を持ち上げた際の柔軟に伸びる特徴と呼吸の表現にこだわった。
実際に動物に癒されるシーンというのは、活発に動いているときではなく、近くでじっとして体温のほのかな温かさや呼吸している腹部の動きなどから静かに傍に居る存在感を感じるときではないだろうか。
今回のロボットも、活発に鳴いたり動いたりするものではなく、猫が安心しているときに見せる静かな挙動を再現し、それをユーザーが体験することで気持ちの和らぎを感じられるリラクセーションロボットの実現を目指す。
癒される猫ロボットでは、丸いクッションから尻尾が生えている「Qoobo」がある。柔らかいクッションと尻尾の動きで動物らしさを表現しユーザーを癒すが、実際の猫はクッションのように柔らかいわけではなく、骨や肉が存在しており独特の変形をする。例えば、リラックスした猫を持ち上げると非常によく伸びる胴体や脚部の流動性が挙げられる。
今回はこの流動性を再現するため、脊椎の骨格構造を取り入れた。また猫の象徴である耳や顔、尻尾は排除し、触ったときや抱っこしたときの触覚に拘るため、柔らかい皮膚上に毛皮を配置し、呼吸時の胸部の伸縮を表現する構造を組み込んだ。
猫の脊椎は人と違い柔軟に動作するため、今回は蛇ロボットで採用される蛇行移動が可能な背骨構造を取り入れた。骨は3Dプリンタやレーザーカッターで造形し、関節部分での可動域を大きくするため、各関節は二軸でパーツを接続し360度に動く仕様にした。
呼吸の動きを表現するため、脊椎を中心に肋骨部が左右に広がって動くように設計した。尾に向けてなだらかな三角形になるように各肋骨部の大きさを変えて組み立てた。これにより太い方が頭だと直感的に分かる。
取り付けたサーボモーターで助骨部を動かし呼吸を表現する。一定の動きではなく呼気と吸気にはスピードに違いが出るため、サーボモータの動きに緩急をつけた。
皮膚はゲル原液から作成し、皮膚を押したときの弾力を再現する。本体を持ち上げた際に伸びる骨格に合わせてゲルが伸びるように硬度を調整した。
猫にはルーズスキンといわれる腹部の皮膚のたるみがあり、これが猫らしさを強めている。そのため背中部分と腹部でゲルの厚みを変え、腹部にたるみをもたせた。
骨とゲルの間には内臓を表現するための布が張られている。一番外側の毛皮には、直毛の猫の毛質に近いポリエステル100%の素材を採用した。
背中に感圧センサーを取り付けることにより、背中をなでた際に反応を返すような仕組みを取り入れた。背中に触れた際にモーターの動きを速め、一瞬ピクリと反応させることで生理現象を再現し、より動物らしさを表現した。
大阪芸術大学卒展会場にて、実際に触れて体験した人たちにアンケートをとった結果、「なでたときの背骨の感じが本物みたい」「家で飼っている猫もこんな手触りだった」「触って呼吸しているのが分かったとき生きているように感じた」「伸びる身体が本物の猫の様だった」などのコメントが得られた。
今回発表した論文の筆頭著者は猫アレルギー体質だという。
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出典および画像クレジット: 松本紗佳, 萩田紀博, 宮下敬宏, 安藤英由樹. “猫の身体の柔軟性と流動性を表現したリラクゼーションロボット” 情報処理学会 インタラクション2022.
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