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IIJの「技術工作室」が面白い ITエンジニアと業務部門が一緒に試行錯誤、困りごと解決しつつ技術力向上(1/2 ページ)

» 2023年01月31日 08時00分 公開
[本多和幸ITmedia]

 業務部門とエンジニアが一緒に試行錯誤しながら業務課題を解決。社内での実践を通して、技術力の向上や、より価値のあるサービス開発につなげる――インターネットイニシアティブ(IIJ)がこんな施策に取り組んでいる。その名も「技術工作室」だ。

 例えば2022年末には、社員約2000人に5日間でグッズを配布しなければいけないという社内課題が発生。頭を悩ませた担当部署が技術工作室に相談し、社内のエンジニアと協力しながら配布を効率化するシステムを設計・開発。無事に課題を解決できたという。

 顧客の課題に対して本質的な効果のあるソリューションを求められるようになっている昨今。ITベンダーはもちろん、DXの一貫として、情報システム部門と業務部門を連携させ、システム内製化を進めたい企業にとっても参考にできる部分がありそうだ。IIJの取り組みの詳細を、キーパーソンに聞いた。

課題アリの業務部門と技術を試したいエンジニアを社内でマッチング

 技術工作室とは、新しい技術を試しながらプロダクトを作ってみたいエンジニアと、社内の業務課題をマッチングする仕組みのことだ。エンジニアの参加は希望制で、基本的にボランティア。本業の合間にシステム開発などの作業をする。窓口などの事務局機能は社長室が担っている。

ALT 藤本椋也氏

 ソフトウェアエンジニアとして働きながら、社長室の技術工作室担当を兼務する藤本椋也氏(プロダクト本部 応用開発課)は「社内の実際の課題などに対して試行錯誤しながらソリューションを作り上げていくことで、技術力の底上げやエンジニアの経験値を上げることを期待している。最終的には顧客にとって価値のある新しいサービスにもつながれば」と取り組みの意図を説明する。

 一見、なかなかエンジニアが集まりにくそうな取り組みにも見えるが、IIJには新しい技術を自発的に学ぼうとする人が多く、成立しているという。「IIJでは多くのエンジニアが、業務に関係なくても新しい技術をただ触ってみようとか、業務には必要ないけどちょっと生活を便利にするツールをつくってみようとか、そういうことを日常的に行っている」(藤本氏)

社員2000人へのグッズ配布、どう効率化する? 技術工作室の活躍

 例えば最近では、広報部が抱えた課題の解決に一役買ったという。22年12月に創業・設立30周年を迎えたIIJは、記念企画の一環で社員にグッズを配布した。用意したグッズは同社エンジニアがデザインしたキャラクターのぬいぐるみ、マグカップ、フリースジャケットの3種類で、フリースジャケットはSからLLまでの4サイズ展開。社員は希望する記念品を一つは無料で自由に選択でき、複数欲しい場合は2つ目以降を給与天引きで購入できるルールだった。

ALT 堂前清隆氏

 それぞれの社員が希望するグッズの品目と数量については、「Microsoft Forms」で作成したフォームに各自入力してもらいデータを集計した。そのデータを基にグッズを発注して必要量を用意。オフィス内に5日間限定で配布の窓口を設置し、手渡しするという前提で業務フローを考えたという。

 しかしこのフローでは、約2000人の社員への配布をいかに効率化するかが課題になった。Formsで集めたデータをExcelに出力すれば「どの社員にどの記念品をいくつ渡すか」は簡単にリスト化できる。問題は窓口のオペレーションだった。

 堂前清隆氏(広報部副部長)は「受け取りに来た社員の名前を窓口で聞いてリストからその社員名を探し、どのグッズをいくつ渡さなければならないかを確認の上、手渡しする。Excelのリストには『お渡し済み』列をつくっておいて、そこにチェックを入れる。オーソドックスに考えればそんなフローになるだろうが、それでは期間内に配布できるか不安があった」と振り返る。

 そこで広報部が頼ったのが技術工作室だ。堂前氏から相談を受けた藤本氏は、技術者としての目線で課題を整理した上で、社内のエンジニアに「こんな案件があるけど、興味のある人、手伝ってくれる人いませんか」と声をかけた。手を挙げたのは坂口和也氏(クラウド本部クラウドサービス2部パブリックリソース1課ソフトウェアエンジニア)と、白崎博生氏(ネットワーク本部副本部長)だ。

ALTALT 白崎博生氏(左)と坂口和也氏(右)

 ユーザーである広報部と、坂口氏、白崎氏のコミュニケーションはビジネスチャット上で実施した。業務上のリクエストとシステムがカバーすべき機能をすり合わせる議論を重ね、基本的な方向性と仕様を数時間で決定。1時間後には坂口氏がプロトタイプを作り上げた。その後3週間でシステムが出来上がったという。

 完成したのはQRコードを活用した受け取り管理システムだ。これにより、実際のグッズ配布は次のようなフローになった。まずグッズを受け取る社員は専用サイトにログインしてQRコードを発行し、窓口でそれを提示。配布係はそのQRコードをiPhoneでスキャン。iPhoneには配布物の内容(品目や個数)が表示され、それを渡す。グッズを受け取った社員が別の専用サイトの「受け取りボタン」を押すとシステム側に配布完了のフラグが立ち、一連のプロセスが完了する。

ALT グッズ配布の流れと管理システムのイメージ

 堂前氏は受け取り管理システムの効果は絶大だったと強調する。「多くの社員は初日に受け取りに来たが、この程度の負荷かと拍子抜けするほど窓口業務はスムーズだった。一方で2日目には、トラブルでシステムが使えず、Excelのリストを人力でチェックしながら配布せざるを得ない時間帯があった。まずリストから当該の社員を見つけるだけで数十秒かかり、品物を用意して配布の完了のチェックをExcelに主導で入力するまでの作業を含めて非常に手間だった。図らずもシステムの効果を実証する形になった」(堂前氏)

ALT 実際の配布の様子
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