「リスキリング」がバズワードとして広がったきっかけとして、世界経済会議(ダボス会議)が挙げられる。20年から「リスキル革命」と題し、「第4次産業革命に伴う技術の変化に対応するために、30 年までに、10億人により良い教育、新しいスキル、より良い仕事を提供する」ことを目指した活動を推進。PwCコンサルティングやLinkedIn、オンライン教育の米Coursera社など、人材企業やオンライン教育を進める団体などがパートナーとして、資金やプログラムを提供している。
日本でもリスキリングへの注目が高まっている。富士通は20年の経営方針説明会の説明資料(PDF)に、DX化に向けた人材獲得のため、社内人材へのリスキリングを行うと明記。日立製作所も22年に公表した人材戦略(PDF)で、スキルベースで採用する「ジョブ型」雇用への転換と並行して、従業員に研修などリスキリングの機会を提供すると発表している。
日本政府もリスキリングに本格的に取り組むことを表明した。22年10月の所信表明演説で、岸田首相が「個人のリスキリングの支援に5年で1兆円を投じる」と述べたのだ。リスキリングを行った中小企業に政府が助成金を支払う制度もある。
リクルートグループやパソナグループといった日本の人材企業は、これをビジネスチャンスととらえているようで、リスキリングを銘打ったサービスを始めている。
国会答弁に話を戻そう。1月27日の国会では、22年10月の岸田首相の所信表明を念頭に、「育児のための産休・育休が取りにくい理由の一つは、仕事を休むことで同期から後れを取ることだといわれている。リスキリングでスキルを身につけたり学位を取ることを支援できれば、逆にキャリアアップが可能なのでは」と、自民党の大家敏志参院議員が質問した。
これに対して岸田首相は、「育児中などさまざまな状況にあっても主体的に学び直しに取り組む方々をしっかりと後押しする」と答えている。
筆者はフリーランスとして働きながら2人の子どもを産み、育てており、産休・育休はなかった。子どもを保育園に入れるため、会社員の育休期間中にも働いていたのだが、夜泣きと授乳で睡眠・栄養不足の中での労働にゴリゴリ削られ、心身を壊した。
仕事ではなく勉強なら、できただろうか。ちょっとしたスキマ時間にできる簡単な勉強なら可能だったかもしれないが、リスキリングと呼べるような、新しい分野のスキルを身につけるのは難しかったと思う。
ただ、筆者の知り合いには、育休中に勉強して資格を取ったり、論文を書いたりしていた人も、ごく少数ながら、いる。同じ乳児の育児といってもその負担感は千差万別で、もともと体力があったり、子どもがよく寝る子であまり手がかからなかったり、家族のサポートが受けやすかったりする場合は、育休中に無理なく勉強できるケースもある。
岸田首相は「育児中などさまざまな状況でも」リスキリング支援の対象に含める、と言っていた。それを否定する必要はないと筆者は感じる。企業や政府は、産休・育休中でも、病気・介護休暇中や休職中、失業中であっても、どんな状況の個人のスキルアップも支援してほしい。やれる人を“あえてサポートしない”理由など、ないと思うのだ。
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