本連載の2回目で、パナソニックのソフトウェアIPスイッチャー「KAIROS」をご紹介した。32入力16出力の中型スイッチャーであるが、合成能力はGPUパワーが許す限り無限大という、ユニークな製品である。
そのKAIROSを中継車に組み込んだという事例が大阪にあるというので、取材に出掛けていった。この中継車「CONNECT車」を所有するのは、大阪を拠点に全国区でMICE(Meeting/Incentive tour/Convention/Exhibition)に関わる映像機器を中心にシステム構築・オペレーションを担う株式会社シーマである。この1月よりCONNECT車のレンタル事業も展開している。
一般に中継車とは、テレビ放送において現場から生放送をする際に必要な機材を搭載して配線済みの状態にしておき、車の中でオペレーションできるようなものをいう。大型トレーラータイプでは、オペレーションスペースを確保するため、停車状態では床がスライドして広くなるといったシカケのものもある。
そんなわけなので、中継車を所有するのはテレビ局か、生中継も対応する撮影会社などが一般的だ。よって、放送とは関係ないMICE系のシーマが中継車を持つこと自体がかなり珍しい。
今回はこの「CONNECT車」構築の話から、なぜMICE業界でIPなのか、といったお話まで幅広く伺うことができた。今回お話を伺ったのは、シーマのネットワーク事業推進室チーフテクニカルディレクターの坂本 光氏と、同推進室アドバイザーの田井 源太郎氏である。
CONNECT車は、テレビ放送用の中継車として売りに出されていた車両をベースにしている。従来の内装は全て外し、利用できるところは利用しながら、新しく機材卓やラックをデザインして搭載した。
KAIROS本体だけでIP入力だけでなくSDI入力も可能なので、コンバーター等の周辺機材は少ない。また放送用ではないのでマイクロ波送受信設備もなく、中身はかなりシンプルだ。電源はもともと車載してあったディーゼル発電機をそのまま採用。状況に応じて外部電源を使う事もあるという。
KAIROS自体は放送クラスの機材にしては省電力で、搭載機材も少ないため、ポータブル電源でも2〜3時間なら稼働できる。現場設営日など、まだ電気配線が行われない時などに使用している。
シーマでは、2021年12月という早いタイミングでKAIROSを導入している。従来型のベースバンドのデジタルスイッチャー同様、持ち込み機材として使用してきたが、なぜ中継車に載せるということになったのだろうか。
坂本 やっぱりコロナ禍になって、仕事はもう目に見えて減っていったということはあります。その中で映像ソリューションの新しい提案が必要ということで、社内で議論を重ねてきました。もともとKAIROSは持ち込みでの運用はできていたんですが、やはり設置も煩雑になりがちなので、こうした中継車タイプの車両を作って、システムレンタルや運用、更には販売面でのデモンストレーションが簡単にできる仕掛けを構築しました。新しいサービスを作って売っていく、そういう戦略に転換した訳です。
大阪ではこれから大阪・関西万博も控えている中、いかに少ない人数で効率よく大きなサービスを提供していくかっていうところが、課題になってきています。
「中継車」と呼ばず「CONNECT車」としたのは、オペレーションは無理に中でやらなくても、外に出してできるからだ。これもコントロールパネルやコントロール用PCはネットワークでつながっていれば、どこに置いても可能だからである。むしろ車のほうに、あらゆるフォーマットの入出力や制御系がつながっていく。よって「CONNECT車」なわけである。
CONNECT車としてのIPシステムも、日々模索しながら運用している。運用実績を積んで完成度を高めつつ、2025年大阪・関西万博や今後のMICEに関わるイベントには必須のシステムになると見ている。
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