ITmedia NEWS > 企業・業界動向 >

基幹システムのクラウド化から数年 エディオンが感じる手応えと課題は?(2/2 ページ)

» 2023年05月23日 10時42分 公開
[本多和幸ITmedia]
前のページへ 1|2       

移行のしやすさとExadataの存在がOCI採用の決め手

 基幹システムの刷新にあたっては、2つのステップで進める基本方針を立てた。最初のステップでビジネスの変化にも柔軟に対応できるインフラをクラウドで再構築。2ステップ目でアプリケーションをモダナイズするというものだ。

 インフラのクラウドシフトには、最新のクラウド環境に移行することで変化への適応力を高めるとともに、運用・保守業務に割く人的リソースを大幅に削減し、そのリソースをアプリケーション開発に振り分ける狙いがあった。社内のエンジニアを事業や業務に近いレイヤーに手厚く配置してコントロールし、ビジネス上の価値創出に貢献できる体制をつくるというわけだ。

 複数のパブリッククラウドサービスを比較検討した結果、新たなインフラとして採用したのはOCIだった。Oracle Cloudの東京リージョンと大阪リージョンを活用し、DR環境も構築した。

 OCIを選択した最大の要因は、データベースサービス「Oracle Exadata Cloud Service」の存在だ。前述の通り、オンプレミスの従来システムではExadataを採用して安定運用を実現していた。概念実証を重ね、クラウド版のExadata Cloud Serviceにより、柔軟性を高めつつオンプレミスと同等以上の性能と信頼性を実現できるという結論に至ったという。

 データベースの移行ツールには「Oracle GoldenGate」を、DR対策における東京リージョンと大阪リージョンのデータ同期には「Oracle Active Data Guard」を採用。いずれのツールもエディオンにとっては導入実績があった。その使い勝手とメリットを理解していたこともOCIの採用を後押しした。

 OCIを採用した背景には、コスト面でのメリットもあったという。「コンピューティングリソースやブロックデバイスの利用料、データ転送料などが他のパブリッククラウドと比べて安価だった」(松藤さん)

 移行に当たっては、SIerに丸投げしないことも意識。「ITを自分たちでコントロールする」として、日本オラクルのコンサルタント部門とも連携して進めたという。

 要件定義から環境構築、各種ソフトウェアのバージョンアップ、新環境への移行までの全てのプロセスを11カ月で終え、20年11月からOCI上で基幹システムが稼働している。GoldenGateで多くのデータを事前にOCI上に移行しておくことで、切り替え当日は夜間3時間の作業で完了。全国の店舗の営業を止めることなく、スムーズな移行を実現した。

移行の手応えは? 運用保守担当の大半を開発業務にシフト

 インフラのクラウドシフトにより、バッチ処理が従来比で40%高速になるなど、パフォーマンスが実際に向上。変化への対応力ももくろみ通り底上げできた手応えがあるという。

 「当然のメリットだが、ハードウェアの調達から解放されたのは大きい。オンプレミスのように余裕を持ってサイジングする必要もなく、機能やリソースを、必要な時に必要な分だけ、容易かつ柔軟に増やしたり減らしたりできる。その分の料金を払えばよく、コストの最適化にもつながっている」(松藤さん)

 当初の目標である運用保守業務の負荷軽減という観点でも、「狙い通りの効果を得られた」と松藤さん。ハードウェアの保守業務が不要になったことに加え、クラウド移行と合わせて運用の自動化・コード化を進められたという。

 例えば、オープンソースのIT構成管理ツールである「Ansible」を使い、東京リージョン、大阪リージョン間でのメインリージョン切り替えや、OS設定、ミドルウェアの導入などを自動化。OCIの環境構築やインスタンス作成などをコード化して、インフラ自動構築ツールの「Terraform」で管理・活用できるようになったという。

 「ハードウェアの保守が必要なくなったこと、運用の自動化などを進めたことで、インフラの運用保守に従来は約20人の人員を割いていたが、担当者を2人まで削減できた。徹底した自動化やコード化は、運用にまつわる業務の効率化だけでなく、見える化にもつながり、属人化やブラックボックス化を防ぐ効果があった。さらに、自分たちがプロジェクトを主導したことで知見も社内に蓄積でき、メンバー全員の自信も高まった」(松藤さん)

 現在は基幹システム刷新の第2ステップであるアプリケーションのモダナイズに取り組んでいる最中だ。運用保守業務に従事していた人員も、9割をアプリケーション開発などにシフトしたという。ただし、インフラのクラウド移行で手応えを感じているが故の課題もあるようだ。

 松藤さんは「Exadata Cloud Serviceには満足しているが、当社のアプリケーション開発はExadataに頼り過ぎていて、それ以外の環境では動かないという状況になりつつある」と苦笑交じりに話す。ビジネスのアジリティを支えるためのITを自社で完全にコントロールできる体制と環境を追求する旅はまだまだ続く。

前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.