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2023年にもなって「AVCHD」が炎上? その複雑な背景とは小寺信良のIT大作戦(1/3 ページ)

» 2023年05月26日 15時30分 公開
[小寺信良ITmedia]

 2023年の連休中、Twitterでは「AVCHD」がトレンド入りするという珍事件が発生した。どういうこっちゃいと思いつつログをあさってみると、8割はネガティブという状態になっており、多くの方は編集時の使いづらさや、扱い方の間違いを問題視しているようだ。

GW中にTwitterトレンド入りした「AVCHD」

 事の発端は、テレビ朝日映像のYouTubeチャンネルにて、「α7 III」の初心者向けの動画フォーマットとしてAVCHDをお勧めしていたことのようだ。ただこの動画はすでに1年前に公開されているもので、今頃発掘されて炎上するというのも気の毒な話である。

 筆者はAVCHDの規格が登場した2006年に開発元のソニーに取材し、開発経緯なども把握しているつもりである。今回は当時の技術トレンドとともに、AVCHDとはそもそもどういう技術だったのか、なぜ今忌み嫌われるのかの理由をさぐってみたいと思う。

8割がネガティブ反応を示した「AVCHD」のツイート

AVCHDが誕生した2006年という時代

 AVCHD規格が発表されたのは、2006年5月11日のことで、ソニーと当時の松下電器(現パナソニック)が共同で策定した。当初は8cmの記録型DVDメディアに、HD解像度の映像を記録するフォーマットとして導入された。

 DVDはSD(Standard Definition)しか記録できない。HDを記録できるのはBlu-rayである。そのDVDにHDを記録するというだけで、かなりの変化球というか、離れ業である事が分かる。

 2006年という年は、ディスクフォーマットでいろいろあった年だ。次世代DVDの座を巡り、Blu-rayとHD DVDが規格争いを展開している中、この年にパナソニックとソニーから現在の形のBlu-rayレコーダーが発売されている。

 実は両者とも、2003〜2004年にかけて初代Blu-rayレコーダーを出しているが、当初のディスクは頑丈なケースに入ったものだった。2006年に発売されたものは、HD DVDとの競争から規格を練り直し、ケースなしで扱えるようにした次世代フォーマットである。つまり2006年は、新設計の記録型Blu-rayが出たばかりというタイミングである。

 当時はすでに地上波デジタル放送は始まっており、テレビのHD化は進んでいた。ビデオカメラは、DVテープにHDを記録するHDVがすでにあった。だがテープ式ビデオカメラは、撮影した映像を見る際にもビデオカメラが必要で、その出力をケーブルでテレビにつないで見る必要があった。

 一方で当時人気だったのは、DVDCAMである。8cmの小型DVDメディアに直接記録するビデオカメラで、日立が業界をリードした。記録したメディアはそのままDVDプレーヤーに入れれば再生できたことから、テープ式を時代遅れにしていった。ただ繰り返すが、SDしか撮れない。

 DVDCAMのHD化は必須だが、当時Blu-rayドライブもメディアも高価で、価格がこなれるまで待っていると商機を逃すという事から、DVDにHDを書くという「飛び道具」が開発されたわけである。実際に日立からBDCAMが登場したのは、およそ1年後の2007年8月末の事であった。

 AVCHDの強みは、安価な8cmDVDメディアにHD解像度映像が記録できることに加え、今後普及が見込まれるBlu-rayプレイヤーやレコーダーにメディアを入れれば、そのまま再生できることである。つまりDVDCAMのメリットを、そのままHDにシフトするためのものだった。

 ただDVDCAM的なものがビデオカメラの未来かという点においては、ソニー・パナソニックとも懐疑的に見ていたふしがある。それというのも、AVCHD規格では最初からDVD以外にもHDDやメモリメディアもサポートしていたからである。

 特にパナソニックは、2006年4月のNABにて、メモリメディアに記録するプロ用カムコーダ「P2」を発表したばかりであり、カムコーダの未来をメモリ記録に見ていたのだと思う。すでにコンシューマーではSDカードが主力となっており、これに記録するフォーマットとしてまた新規に独自規格を立ち上げるより、ソニーと共同開発したAVCHDに乗った方が得策と考えただろうことは、想像に難くない。

 2006年内には、ソニーからはDVD型とHDD型、パナソニックからはSDカード型とDVD型のAVCHDカメラが、相次いで市場投入された。

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